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或る者は祖母の形見、或る者は都から来たという大層美しい花、或る者はその季節の花々、或る者に至っては美しい着物を纏い自分が持ってるもので一番美しいと宣った。
そんな中、一人の娘の返答が中々来なかった。
持っているものという条件故すぐ答えられるはずなのにだ。
桜という名のその娘は、松の家を訪れては他愛のない話をして帰るだけの日々が続いた。
「松様、持ってきたいのはやまやまなのですが私では持ち運べないので良ければ来ていた台でしょうか」
桜はそう言うと松の手を取り外へと出かけていった。
「桜、この先にその美しいものはあるのか?」
「いいえ、村の中でも見れるのですが分かりにくいのでわかるところまで行くのです」
山を登り小一時間経った頃、突然木々が開け広々とした空間へと出る。
そこにあったのは巨木といっても差し支えのないヤマザクラであった。
「春になると近場で咲いてないはずの村に白い花びらが届くでしょう? 気になって一人で山に潜って見つけたのです」
「これがお前の美しいものか」
「いいえ、私の美しいものはここより見るのが最も良いのです」
そういうと桜は指し示すように崖側を指さした。
そちらに目を向けると桜や松
たちの住む村がよく見えた。
「松様が人ならざるものであることは存じております。 貴方様は長いときを人と共に歩んでまいりました。 捨てることなど造作もないのに」
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