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「俺は人が好きだからな」
「私も村の仲間を、家族のことを愛しております。 都の様に優美ではなくとも、慎ましやかに寄り添って生きるこここそが私の美しいものにございます」
美しいものを寄越せと言ったがすでに持っていたと宣言されたようで、松は大層驚いた。
「あやかしと知りつつ縁を結びたがるのは何故だ」
ふと、松は疑問に思った。
桜にとって老いることなく、在り続ける松は恐怖の対象ではないのかと。
もし番うことになったら、己は老いるのに伴侶はずっと変わらぬ姿であり続けるのだ。
「貴方様が松だからでございます」
「俺の名か?」
「はい、『まつ』は『かれぬ』ものでしょう? 私は桜でございます故、また季節が廻ったら相まみえたいと思えるのが貴方様なのです」
松、枯れぬ。
待つ、離れぬ。
季節はきっと、今生の別れ。
来世もまた会いたいと、そう桜は思っているということのようだ。
「桜が桜で無くなっても、また会いたいと願うのか?」
「初めて出会ったときからお慕いしております。 生まれ変わっても間違いなく貴方様に」
「……そうか」
初めて会ったのは桜が1歳になるより前、桜の母の肥え立ちが悪く看病の手伝いで世話をするときなった時だ。
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