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花粉日和
桜が舞う季節。風に吹かれた一枚一枚の花びらが舞う。その花びらの見る目が霞んでいく。そう、この季節が来てしまった。
いつもの入口に入る。警備室にいる警備員に一礼しながら「おはようございます」と挨拶をすると、「おはようございます」という大きな挨拶が帰ってくる。階段を駆け上がって工場の中へ入っていく。更衣室で身支度を済ませてエレベーターに乗る。休憩室で一休み。そして時は流れて朝礼場で朝礼し、作業に取り組む……はずだった。その手前で私はくしゃみをしてしまった。はしたないとは言っても出てしまったものはしょうがない。そんな私に対して綺麗な手に掴まってるポケットティッシュが私の目に映る。
「ありがとう……」
「いえいえ」
ポケットティッシュなんか持っているから女性かと思ったら小柄の男性だった。彼はいつも優しさをどこからかさり気なく示そうとしてるので工程内では好印象がある。そんな彼をいつの間にか惚れてしまっていたかもしれない。
私が彼に一枚取ったポケットティッシュを返そうとすると、彼は微笑んで言った。
「それ、あげるよ。今日は花粉日和だから」
「えっ、でも」
そのポケットティッシュはどう見ても外で配ってる物ではなく、店で買ったであろう品物である。
「いいんだよ、んじゃ」
彼はそう言って去って行った。そしていつも通りの仕事に加えて残業を終えた。彼とは違う作業場でもう帰ったらしい。最後の一枚を噛んでゴミ箱に入れようとした瞬間だった。一枚の紙があった。
『今までありがとうございます。こんなところでしか言えなかった私を許して下さい。今日で私は今までのあなたとの関係にさよならです。なぜなら』
どういうことなの?という言葉が脳裏をいたずらに掻き乱す。会社を辞めることだけが前提に来てしまい、考えがまとまらない。彼が会社を辞めることを私以外に知っているってことはなんだか切ないじゃない。
私は彼の連絡先に連絡しようとしたが、そもそもそれを私は知らなかった。落とした一枚のその紙が先ほど見た桜の花びらのように表裏をひらひらと回りながら落ちていく。そして裏に書かれたのは……。
「ここに愛を示したからです。TEL……」
裏に続いていた。そこには連絡先が書かれていた。私はそこに書かれた連絡先に連絡した。
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