失われたもの

5

私は火曜日の昼休みに回りの人に解らないよう、トイレからパソコン教室に電話をしてみた。別にバレてしまっても良いのだが、何となく恥ずかしいからである。
「はい。ええ、パソコンを習いたいのですね。初級、中級、上級とありますが、まずは体験入学をされてみては如何ですか？」
「はい。お願いします」
「予約を取りますね。都合の良い日はありますか？」
昼間は休みなく仕事である。
「夜の７時位からでも大丈夫でしょうか？」
「９時までやっているので大丈夫ですよ。何曜日が宜しいでしょう？」
なるべく早い方が良い。思い立ったが吉日である。
「明日の７時に行きます」
「解りました。お待ちしております」
それから、名前や年齢等を教えて電話を切った。
よし、これで後は中古のパソコンを買おう。私は何となく重かった心が軽くなった。
パソコン教室は体験入学をした日に申し込んだ。近所に他に良さそうな教室はなかったし、早く覚えたいからである。初級は本当の初心者だと言う事で、私は中級からのスタートになった。きっと林さんなら上級だろうと思った。
それからパソコンも自分用にノートパソコンを買った。一人で家に居る時はなるべくパソコンを使うようにする。タイピングゲームをインターネットで見つけたので毎日それでブラインドタッチの練習をした。徐々にではあるがキーボード入力も早くなった。不思議な物で段々出来る様になると仕事が楽しい。ますますパソコンがやりたくなる。そうだ、武田さんにパソコン教えて欲しいって言われてたんだ。まだ人に教えられる程ではないけれど、報告がてら武田さんに連絡してみよう。私はスマートフォンから武田さんにメールを打った。