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同じ時期に入社した武田さんという女の子は仕事が早くていつも上司に褒められている。武田さんは私と同じ年位。二十代半ばであろう。仕事のスピードは私の倍位早い。それを考えると嫌でも毎日落ち込んでしまう。
「今野さん、武田さんみたいに出来ない?同時に入社したとは思えないわよ」
私は泣きたくなる。
誰が悪い訳でもない。上司だってやらねばならない仕事なんだろう。だが気がつくと目の端に涙が滲んでくる。
私は武田さんと違って、この仕事が合わないのかもしれないと思う。
いつか誰かから聞いた記憶がある。
どうせなら好きな仕事で御飯を食べていけるようにした方が良いと。
本当にその通りだ。
私は思いつめてしまう癖があり、悲しい事にこんな事で毎日のように悩んでしまうのだ。
また仕事を辞めるべきかと考える。
だが親元を離れて一人暮らしで生活をしているので簡単に転職をする訳にもいかないのが現実でもある。それでなくても長続きする職につけた事がないのだ。
私は毎朝、嘘をついて休んでしまおうか、仮病を使おうかと思いながら工場へ行く。そんな状態で工場に着くと、上司に何時ものようにチクりと嫌味を言われる。
「遅いわね。今日も遅刻ギリギリ。出社も仕事ももうちょっと早くで出来ない?」
出来ないから困っているのである。何かコツがあるのかな。私はあれこれ考えながらも仕事を始めようと狭い席に置いてある大きな拡大鏡の前に座る。検査をする人の席は縦横にズラッと並べられていて、50席位はあるだろう。8時30分から5時30分までの間休憩を挟むが、そこで黙々と仕事をしなければならないのだ。それでも座り仕事なのが唯一救われるところかもしれない。だが休んでいる暇など無い。作業台の横には今日検査しなくてはいけない部品が何段にも積み重ねられているのである。
今日中にこれを終わらせなくては・・・。
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