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私は遅いながらもどうにか午前中の仕事を終えるとお昼を食べる為社員食堂へ向かった。お昼は何時も仕出しのお弁当を注文しているのだ。武田さんも何時も私と同じお弁当を食べている。広い食堂に座り私は手をあげて入り口付近に立っている武田さんに挨拶をする。武田さんはトントンと肩を叩きながら食堂に備え付けてある給茶機からお茶を注いで私の向かいの席に座った。
「お疲れ様。午前中は終わるのが早いね」
私は持っていたお弁当を1つ武田さんに渡した。
「そうかなー。私はヘトヘト」
「今野さんは、肩に力が入り過ぎじゃない?」
「だって、不良品を出荷させちゃったら大変だもの」
不良品で作られた車が走る所を想像して怖くなる。
「出荷される頃には誰が検査したかなんて解る訳がないじゃない」
確かに武田さんの言う通りだ。しかし、それで良いのだろうか?それに上司のチェックが入る時もある。そんな時、私が詰めた良品の箱の中に誤って不良品が入っていると大げさに溜息をつかれ、怒られてしまうのだ。
「私、仕事が合わないのかな」
「そんな事ないと思うよ。真面目なだけじゃない?私は適当だもの」
武田さんが慰めてくれるが、仕事を辞めたいという気持ちは変わらない。
「今日のお弁当何かな?」
話を誤魔化すかの様に、私はお弁当の蓋を開ける。中にはいつもと変わらない内容のおかずが何品か並んでいた。中身に文句がある訳でもないが今日もあまり食欲が湧かない。
「武田さんは、この会社で転職何回目?」
私は武田さんに訊ねる。
「3回目だよ。今までも検査の仕事ばっかり。今野さんは検査の仕事は初めてだっけ?」
「そうなの。でも箱詰めとか工場の仕事だけ。7回位転職したかな。もうヤバいでしょ」
「なかなか合う仕事って見つからないもんだよ」
「そうかなー」
「うん。うん」
武田さんが頷いてくれるが、私の心は沈んだままだ。
「私、デスクワークとかやってみたいな」
「ああ。デスクワークね。私も憧れる」
「お茶くみとか、ただの雑用でもいいからオフィスカジュアルとか着てみたいと思うんだ。作業服なんて私には似合わないもの」
私は着ている作業服をつまんで引っ張った。
「そう言えば、国道沿いの中古車屋さん、求人が出てたよ」
武田さんはさらり、そう言うと、オムレツを口に運びながら話を続ける。
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