三話「悪徳少女」

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三話「悪徳少女」

駅に向かう最中に警察官が二人、何やら紙を持ってこちらに向かって来る。フードを被ったまま顔を隠して素通りすればよいか。 「おい、そこの君、止まれ」 「何ですか?」 警察官は目の前にいる顔とその紙に撮ってある顔を見比べている。もちろん、そこにあるのは指名手配書だった。 「いや、大丈夫だ。君、この人知らないか?」 「あんたら、金に目が行くようなことしてんならもっとやるべきことがあんじゃないっすか」 「すまなかったな。おい、行くぞ」 「おっす」 警察官たちはそのまま私の来た道を去って行った。私は安堵した。そのまま警察官たちに会ったら確実にバレていたからだ。目の前の青年がフードを被っていた。警察官たちが来る前に彼を利用させてもらって素早く川岸の通路に白い柵を飛び越えたのだった。 「いい獲物みーつけたぁ!!」 少女の声が聞こえると思ったら、目の前に赤いフードを被った中学生くらいの女の子がいる。手には私の指名手配書を持っていた。 (待って。この子、下履いてないのか?) ズボンやスカートが見えない。だから私はそう思えてしまう。いや、女子服ならではの短パンのジーンズとか有り得る。それに今は夏に近づいたこの季節だ。この子の年頃は足を出したがるだろう。彼女は手に持っていた紙をポケットにしまい込んで百円ショップで売られてそうな刃物を両手に装備した。目付きは人を殺す目で口が笑っているようだ。 「ねぇ、おっさん。死んで?」 彼女は私に向けて飛び掛って来る。私には武器を持っていない。よく世間では「女に暴力なんて許せない」だとか、「子どもに暴力とかふざけんなっ!!」とか言うだろう。しかし今回ばかりはしょうがない。いわゆるケースバイケースっていう奴だ。 私は彼女の持っているナイフの手を自分の手の甲などで強く叩いて落としていく。そしてなんとか彼女のお腹の上あたりに下半身を乗せた。彼女は嘔吐して苦しんでる。ケースバイケースとは言っても、さすがにやり過ぎたか? 「苦しい……でもいい。私を……殺して!!」 何言ってんだ、この子は。私はそう思いつつそのまま彼女の首を絞める。彼女は目を閉じていた。殺す気など、これぽっちもない。理由はどうあれ、彼女に分かって欲しかった。命の重要さを。 彼女の脈が何回か手に触れてくる。彼女の目から涙が静かにゆっくり流れてる。私はそれを見ながら、体を起こした。そして寝転んだ彼女を見て思った。 (スボンどころか、パンツも履いてないじゃねーか!!) 少女はゆっくり目を開けた。 「なんで殺してくれないの?あんたを殺そうとしたクズで何も役に立たない女なのに!!」と寝転んだままで両手両足をじたばたしている。 「親か誰かにそういう風に言われたか?さらにあんたなんか産むんじゃなかったとかも言われたか?」 「!?」 彼女は何も言わずに驚いた表情の中で涙だけが滝のように流れているかと思いきや、彼女は体を起こすなりフード服のジッパーを下げた。そしてそこには彼女の生まれたままの肌が露わになった。 「殺さないのなら私の体で金を貰うから!!犯して!!」 何を言ってるんだか。確かに本能的に目の前に女が裸になっていたら、興奮してしまうのが男の本能。だが、私にはあれでも妻がいる。それに亡くなってしまった息子の存在は大きい。今、こうして百億円の価値を掛けられてるのにさらに苦しみはいらない。私は彼女に近寄る。 「えっ?そんな急に……優しく……ねっ?」 「嫌だね」 私は力強く上にジッパーを引き上げた。彼女の体が少し浮いてしまった。 「何もしない。今の俺はまだ何もない無価値だ。家族がいるしな。でもそんな俺だからこそ君に言えることがある。お互いに命は大事にしようぜ」 「……はい」 「さて、このまま放置するのはやだな。まだ君は初(うぶ)だろうからな。警察を呼ぶか」 「でもおっさん、捕まっちゃうんじゃない?」 「そうだな、俺もお尋ね者だからな。だが、鼻をつまんで話せば問題はないし、こいつはここでおさらばにしよう。君の名は?」 「”はなさきさくら”です」 「いい名前じゃないか。じゃ、電話するぞ」 私は警察に電話をした。彼女の事情を鼻をつまんで話すと、素直に従って彼女を迎えに来てくれるらしい。私はスマホをそのまま川へと投げ入れた。 「じゃ、そこにいろよ」 「おっさん!!」 「ん?何だ?」 「あんた、いい人だよ。私も大きくなったらあんたみたいに困っている人を救える人になりたい」 「ふははは。その時が来るといいな」 「ありがとう。そしてさよなら」 「あぁ」 そして私は先をしばらく歩いた。遠くから彼女が保護されるのを見届けたのだった。
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