プロローグ

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プロローグ

 遙か北の地――、桜の木を見上げる男がいた。  黒地に僅かに金を配した上着、膝までの黒いブーツ、肩に散る黒髪がサラサラと風に運ばれる。 「ふん、こんな状況でも桜だけは咲きやがる」  刀を手にし、男は漸く膨らみ始めた桜の蕾を皮肉った。 「副長、新撰組隊士全員揃いました」  男は、ふっと笑う。握りしめていた片手を開けば、『誠』の一字が記された鉢巻きがある。  はっきり言って、状況は良くはない。  転戦に次ぐ転戦――、北へ北へと向かった彼が辿り着いた地の春は遅い。  ――ここが、俺の最後の地になるだろうな。  だからと言って悔いはない。それが、己で決めた道であり、運命。  胸の内に戦いの火が燃える限り、これまで刀一本で切り抜けてきた。彼のその火は、今も消えてはいない。  そうしてもう一度、桜を見上げる。  懐かしき戦友(とも)はもういなかったが、彼のその脳裏には今も焼き付いている。 「じゃ、行ってくるぜ」
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