神はそこにいまし

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神はそこにいまし

 私は神様と暮らしている。でもそれは「見守っていてくださる」とか信仰のことじゃない。だって神様は、そこにいるから。 「煮えたかのー? も少しかのー?」  斜面に石を置き水平に設置したカセットコンロへ向かって、大根しか浮いていない味噌汁を覗き込む女の子。彼女がその神様。  不便なくらいに長い黒髪と愛くるしい顔立ちは童話のお姫様のよう。その一方で膝をペチペチ叩いてリズムよく腰を浮かせ、お尻の下の丸石をペタンペタン鳴らしてはしゃぐ様子はいかにも子供らしい。見かけは五才児くらいで、表に白い布が目立つ着物は巫女さんというより神主さんの服に似て見える。  それが私の同居相手で今の神様。 「神様、料理を待つ間によかったらコレをどうぞ。頂き物なんですけど」 「捧げ物か、感心感心。ほほう! これはまた随分と華やかな箱じゃの?」  横長の箱を差し出すと大喜びで中からドーナツを取って、しげしげ眺めるパッチリした瞳は新鮮な驚きで輝いている。まるでそれが何かを知らないみたいに。 「変わった菓子じゃのー? 無作法な遊び心をくすぐられる形じゃ」     
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