第4話 女の本音

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しえりの部屋では、いい感じに酔っぱらったさゆみは後ろにある柔らかいクッションのようなものに寄りかかった。 「何これ、ぬいぐるみ?」 「うん、私がなかなか取れないでいたら、代わりにやってくれて取ってくれたの」 「よかったね。UFOでほしいぬいぐるみあったら頼めば取ってくれるじゃん」 「いや取ってくれたというよりは、私がモタモタしてたから痺れを切らしてって感じだったけど。すごいバカにされたし」 「でもさゲーセンで出会うってある意味奇跡でしょ?」 「まあ、ね」 未だ腑に落ちない様子の私に、陽気な彼女は肩をバシバシ叩いて励ますように言った。 「まあさ、きっかけはなんであれ、趣味が共通している相手に出会えたことにまずは感謝しなきゃ!あんたみたいな特殊な人間と渡り合うことができる良きパートナーにもなりうる訳だし」 「あんたね、人を未知の生命体みたいに言わないでくれる?」 「それに、あんたがいつも武装している姿よりそのままのほうがいいって言ってたんだよね?」 「まあ、気にしないって」 「ならさ、ありのままのあんたを受け入れてくれるかもしれないよね」 彼女のその一言に胸がざわついた。言った本人はうん私良いこと言った!とばかりにガッツポーズをしている。歌が好きな彼女のことだ。放っておいたらアナ雪のLet it goを歌いかねないと思って何を言おうか考える。 「こんな私でも、受け入れてくれるかな」 「それは彼次第でしょ、今さら何弱気なこと言ってんの。好きなら当たって砕けなさいよ!」 「やだ、砕けたくない」 「あーもう、めんどくさい性格だよね。ほんと」 「うるさいなあ、ほっといてよ。女もこの歳になると慎重になるの!ガラスのハートなのよ!」 「とか言って、自分が傷つくのが怖いだけなんでしょ。恥も見栄も若い頃にとっくに捨てたんじゃなかったの?」 こういう時の彼女は苦手だ。長い付き合いだけどこんなふうに弱音を吐くといつも決まって真っ正面から正論をぶつけてくる。それが日陰の下で生きてきた私には眩しすぎて。人の価値観なんてそれぞれじゃない、皆が皆、さゆみみたいに器用に生きてるわけじゃないと叫びたかった。 「そうだよ。私は私がかわいいの」 我ながら情けない返し方だと思った。でも事実なのだから仕方ない。きっと皆、我が身可愛さに今日も仮面をかぶり当たり障りのない会話をし、外敵から身を守って生きているのだろう。本音と建て前が渦巻く現代社会の中で私達は必死にもがいている。
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