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ゲーム内で次々と現れる恐竜達を手当たり次第に打ち抜いてバッタバッタと彼らは倒れていく。倒れてもまた新しいのがこちらへ迫ってくる。この何匹も倒した後の快感といったらない。もうたまらなく気持ちがいいのだ。顔色変えずにひたすら打ちまくる私が鬼畜にしかみえないとさゆみにぼやかれるほどだ。誰が何と思おうと構いやしない、これが私の最近のストレス発散なのだ。誰にも邪魔はさせない。
ちらりと彼のほうを盗み見ると向こうも感情が読み取りにくい顔で次から次へと休むことなく打ちまくっていた。
これは勝ったなと私は勝利を確信した。私はイベントでゲットした6連シューターが使えるが彼は普通のマシンガンで打っているのでその分、倒せる数に差が出てくる。数をこなさないと連続技を出している私には追いつけないはずだ。
「ゲームセット!私の勝ちね」
「ああ、負けたよ」
彼は、はあはあと息を整えていたが、僅かに悔しそうな笑みを浮かべた。いつもは彼のペースに巻き込まれて自爆しているので、とても新鮮だったからか私はとてもいい気分になっていた。
「何をしてもらおうかな~?じゃ後でそこのコンビニで絶品スイーツ買ってもらえます?」
「俺、このあとスーパー行くんだけどそこで売ってるのじゃだめ?」
「だめ」
「わかったよ」
彼は呆れたように頷くと、私が次に夢中になっているゲームを覗きこんできた。
「またこれ?」
「いいでしょ、別に何やったって。このモーミンのぬいぐるみ。すごくレアだからゲットしたいだけ」
「ふ~ん、キャラクターが好きなんだ?」
「何よ、悪い?」
「いや、いいんじゃない別に。それよりそのやり方じゃ取れないと思うよ」
「え」
彼が指さしてのんびり言った時には、すでに掴んだはずのぬいぐるみが落ちてしまっていて、私はキッとして振り向くと言った。
「ちょっと!あんたのせいで落ちちゃったじゃない!」
「人のせいにしないでくれる?あんたが下手なのが悪い」
「言ったわね!そんなに言うなら見本見せてよ」
「いいけど」
彼はわかりやすくため息をつくと、別のUFOの台に行き、何でもないふうにあっさりとぬいぐるみを取ってしまった。
「え?ちょっと待って!早すぎて分からなかった。もう1回!もう1回だけ」
「えーやだよ。面倒くさい」
心底嫌そうな顔をされて、私は何でこんな奴に頭下げてまで教えを請おうとしているのだろうと、情けない気持ちになった。でも大好きなモーミンのため、背に腹はかえられない。
「もう一度、お願いします」
「何でそんなにこの白いカバのようなぬいぐるみにこだわるの」
「ちょっと!モーミンを侮辱しないでよ。好きだからに決まってるじゃない」
私は自分が無意識にこっぱずかしいことを口走ってしまったことに焦り、ゲームセンターの周辺は何だかざわついている。一瞬、彼は驚いていたように見えたが、すぐに真顔に戻ると私の手に百円を手渡した。
「じゃあ、そのやる気見せてよ。横で教えるから」
「ほんとに?ありがとう!持つべきものはゲームの友だわ」
クレーンを下ろすときに私はいつも後ろの方を掴むことが多いのだが、それだと上に上がった時に衝撃で落ちることがあるのでできるだけ首と上半身の間に食い込ませると持ち上げやすいそうだ。
言われた通りにやってみたら、さっきよりは取れそうになってきた。後ろにいる彼は欠伸をしている。意地になって何回もチャレンジして8回目の正直で目標は達成できた。
「や、やった!やったよ取れたー!」
私はうれしさのあまり、声をあげてご機嫌になってノリで彼とハイタッチをしようとしていた。当の本人は少し怯んだが困ったように手をパチンと合わせてくれた。案外大きな手にドキドキした。
「やるじゃん」
「えらそうに! でも、ありがとう」
彼は私との約束を守ってくれ、コンビニで欲しいと頼んだロールケーキを買ってくれた。これは夕ご飯の後の楽しみにとっておこうと思った。
「夕ご飯、何にしようかな」
「もう時間も遅いし、簡単な惣菜でも買うよ」
「ごめんなさいね、遅くなっちゃって」
「まさかあんなに粘るとは思わなかった。執念ってすごいな」
「それ、ほめてるの」
「ああ、ほめてる、ほめてる」
おざなりな言い方が何とも腹立たしいが念願のモーミンのぬいぐるみとコンビニスイーツを手にした今はご機嫌なので彼の軽口も気にはならなかった。時刻は9時過ぎになろうとしていたが、私達は賑やかに言い合いしながらスーパーへ向かった。
「そういえば、前にピザトーストの作り方教えてって言ってたよな」
「うん」
「作り方送るから、メルアドかLIME教えて」
ええ~!まさかの連絡先ゲット!!っていうかわざわざ教えてくれるなんて意外とマメなとこあるんだな。今日は結構収穫があった日かも。これからはたまにメールとかLlMEでやり取りなんかしちゃったりして。寝る前とかはおやすみとか。やばい。いろいろあらぬ妄想をしてしまう。
「何、にやけてんの」
「別に~」
結構するどいからな、危ない危ない。その時は挙動不審にならないように私は何とかごまかすことに成功したことにほっとした。
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