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第4話 女の本音
ああ、もうこんな時間。茜色に染まる夕日にこれは明日も晴れるだろうな
とかのんびり考える。今日は夕ご飯何にしようかな、簡単にすませちゃおうかな。なんて思いながら足は自然とスーパーに吸い込まれていく。かごをカートに置くと夕方の賑やかな人の波をかき分けながらお惣菜コーナーを目指す。やっぱり週末は皆、楽したいのかたくさんの人だかりができていた。
ローストビーフのサラダがおつとめ品だったので迷わずかごに入れていると聞き覚えのある声に呼び止められた。
「しえりじゃない、あんたも夕飯の買い物?」
「うん、珍しいね、今日は休みだったの?」
「そう、今日は早番だったの。何にしようか迷い中~」
「だよね、どれにしようか迷うよね」
腕組みして真剣に悩んでいると、さゆみが思い出したように聞いてきた。
「あ、ねぇ。今日この後さ、あいてる?」
「うん、何もないけど」
「じゃあさ、一緒にごはん食べよ。しえりの家近いし、女子会決定!」
相変わらず強引なとこは昔から変わっていない。
「もう。それはいいけど、散らかってるよ」
「気にしないよ、あんたの部屋が散らかってるのなんていつものことじゃん」
「し、失礼な!いつもじゃありません~!」
「いつもです~」
私たちはこんな感じでいつものノリでいつものくだらない意地の張り合いをしては揉めている。でも気心知れた相手だからこそ全部さらけ出したくなるのかもしれない。彼女とはもう18年の付き合いだ。さゆみのお母さんのお店が開店したのと同じくらいの月日が経過している。なんだかんだ言っていまだに会って遊んだりご飯食べにいったりしているのは彼女くらいなもんだ。
「サラダだけじゃ少ないでしょ、私なんか作ろうか」
「え、いいの?じゃあねパスタがいい!」
「パスタね。何味にする?」
「んー、ナポリタンがいい」
「ナポリタン?あのピーマンとかタマネギとかウインナーとか入ってるの?」
「そうそう、最近テレビでみて美味しそうだなと」
「じゃ、そうしよう」
「よし、決まり!」
成り行きとはいえ、女子会すると決まった後の彼女の張り切りぶりは何だか笑えた。女子会か。女同士まったり過ごすのも悪くないな。私達は早々と買い物を済ませて家についた。
「さて、作りますか。キッチン借りるわよ」
「私も手伝うよ、で、何からやればいいのかな。さゆみシェフ」
「よろしい、ではまずこの野菜とウインナーを切ってください」
「は~い♪」
私が野菜を切っている横で彼女はケチャップをフライパンで暖めている。彼女曰くあらかじめケチャップを炒めておくのが隠し味らしい。
茹でたてのパスタとナポリタンの具をパスタとあえて最後にバターを少々。芳しいバターの香りが部屋いっぱいに広がる。サラダと並んで素敵なディナーがテーブルに並べられた。
「うわ、美味しそう~!」
「お代は800円になりま~す」
「お金とるの?」
「さて、食べますか」
「ビールとかチューハイは冷蔵庫に冷えてる?」
「飲もう飲もう」
かくして私達の女子会が始まった。料理はおいしくお酒も進み、話題はやはり最近のこと、恋バナに行き着いた。
「最近どう?お隣さんと仲良くやれてる?」
「仲良くというか、からかう相手としては最適みたい」
「何そんな拗ねてんの」
「別に、ただもうちょっと女の子扱いしてくれてもいいじゃないと思って」
「あはは、30すぎて女の子扱いされたいってあんたは乙女か」
「だってさ、たまにやさしかったりからかってきたり、昨日なんか犬に似てるって、犬扱いだよ!小説の彼は完璧王子なのにさ、まるで真逆よ」
「犬扱い!ウケる!いや、待って。昨日会ってたの?」
「うん、ゲームで遊ぼうって誘われてね」
「まじか。で、昨日は二人っきりだったのね」
「そんなムードもへったくれもないよ。マリカーでガチンコ勝負してただけだし」
「でもさ、家に呼んでくれたなら脈ありじゃない?あんたのこと気に入ってるのかも」
「まあ、面白いとは言われたけど、もう完全、絶滅危惧種か天然記念物の類だと思われてるよ。あれ」
「ああ、自覚はあるんだ」
「何が…?」
ニヤニヤするだけで何も言わない彼女に腹を立ててご機嫌斜めになった私を見てさゆみがごめん言い過ぎたと慌ててなだめてきた。全く失礼しちゃうよ。興味持ってもらえてうれしいけどなんか違うんだよなぁ。でもその方がぎこちなくならず今後も付き合いやすいのかも。という思いもあり、揺れる女心は複雑だった。
「しかもどこか行こうって誘っても全くのってこないし、思わせぶりなことを言ったりそういう態度を見せたりするのに、何考えてるかわかんないし!あ~!どうしたら振り向いてくれるんだろ!」
ビールをカァンとテーブルに叩きつけて捲したてるようにさけぶと何だか空しくなってそのまま項垂れた。
「恋してるねぇ」
目の前では余裕そうに彼女がニヤリと微笑みながら言った。私は何だか恥ずかしくなり顔を伏せながら聞いた。
「そういう、さゆみは最近どうなのよ」
「私はいないよ。ってかもう恋とか恋愛とかはしばらくいいかな」
「爛れた恋愛ばかりしてるとそうなるのか」
「なっ、失礼ね。ちゃんと皆、愛してたわよ」
「あ~そうですか」
彼女はヤケになって半分になってたビールをグラスに注ぐと一気にグイッと煽った。思い出したのだろうか少し目が潤んでいるように見える。
「じゃあさ、隼人くんは?懐かれてたじゃん?」
「やだよ~!あんなかまってみたいなタイプ、つかれそうだもん」
「はは、まあ確かに」
私達がそんな話をしている時、うわさの隼人くんと彼は一緒にいた。
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