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イルカのショーが終わると、晴人は立ち上がって、脇に置いていたギターを背負う。晴人はどこに行くときでもギターを背負っている。良いフレーズを思いついたときに、それを逃さないためには、いつでもギターが必要なんだそうだ。
「とりあえず、昼飯でも食べに行こうか?」
そう言うと、晴人は歩き出す。
「うん、わかった」
私は慌てて晴人の後を追いかける。
昼食時ということもあって、水族館の中にあるレストランの前には長い列ができている。私たちはその列の一番後ろに並ぶ。
「ねえ、晴人は何食べる?」
「まだ決めてないよ。メニューも見てないのに。何でそんなこと訊くの?」
晴人は仏頂面で言う。どうやら、あまり機嫌が良くないらしい。だけど、晴人を不機嫌にさせるようなことをしたり言ったりした記憶はない。強いて言うなら、さっき太腿を叩いたことくらいだけど、それくらいで機嫌を損ねるとも思えない。とりあえず、私は気にしないことにした。
「メニューが被ったら嫌じゃない。交換できないし」
「交換ね。まあ、いいけど」
そんな会話を交わしている間にも、列は少しずつ前に進んでゆく。そして、並んでから二十分くらいで私たちはレストランに入ることができた。
窓際の席に通された私と晴人は、テーブルに向かい合って座る。それから、しばらく二人でメニューを眺めて、私はカルボナーラ・スパゲティを、晴人はハンバーグ定食を注文した。
「ねえ、晴人、何か怒ってる?」
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