ご主人様は、あなたです。

5/17

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 暗い空間の中、そんなことを妄想して自嘲じみに小さく笑う。部屋の中心に置かれた机に手を置きながら、ぐるりと回るように壁に並んだ薬品を眺めていると、コンと左手に何かが当たった。 「なんだこれ?」  誰かが棚になおし忘れたのか、そこにはやたらと汚いフラスコがぽつんと置かれていた。 典型的な三角の形をしたそのフラスコは、かなり使い込まれているのか、暗い部屋の中でもシミが付いているのがわかった。 しかも、理科準備室に置かれているのに、妙にこの空間とマッチしない。まるで、半世紀前に使われていたものが、洗い忘れたままタイムスリップしてきたみたいに。  汚な、と呟き手に持っていたフラスコを机に戻そうとした。が、汚れたまま孤独に閉じ込められていたその姿が、やけに今の自分の心に引っかかる。 なんだか、この世界に未練だけ残して消えていく僕のことを、ずっと待っていたかのように感じた。  これに薬品を入れて飲もうか。そんなことを思った僕は、まう一度そのフラスコを持ち上げると顔に近づける。黄色なのか黒色なのかわからないが、表面についたシミが大き過ぎて中まで見えない。 ぎゅっと目を凝らして見た時、ちょうど三角形のてっぺんみたいなところに、何かの文字が書かれていることに気づいた。 「じ……じに?」     
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加