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突如僕の耳に、オペラ歌手みたいなキーの高い叫び声が聞こえたと思ったら、モクモクと広がる煙の中から、今度は人の姿をした何かが飛び出してきた。この世のものとは思えない光景に、思わず呼吸が止まる。
「ひっさりぶりの、シャバだぁあああ!」
オペラとは一変、今度は僕の耳におっさんの声が聞こえる。そして目の前には、紫色の煙に身を包む人間……みたいなやつの姿。そいつは僕のこと見るなり、嬉しそうに声をあげる。
「おや! もしかして私を呼んだのはあなたですか、ご主人様!」
そう言って両手を広げる相手に、僕は絶句した。台詞だけ聞けばメイド喫茶にでもやってきたのかと思いそうだが、目の前の人物はメイドではない。ただの、おっさんだ。いや、かなり特殊なおっさんだ。
おっさんの姿をしているくせに身体の大きさは僕の上半身ぐらいしかないし、何のコスプレのつもりか、侍みたいな衣装を着て頭はちょんまげだ。
そして何より、下半身がない。
本来であれば足があるはずの部分が、うにょうにょと紫色の煙に包まれている。それはちょうど、雑な感じでオバケの絵を描くときのあれに似ていた。
ありえない光景に言葉を失う僕とは反対に、ニコニコと笑みを浮かべるオバケ型のおっさんは、愉快な声で話しを続ける。
「おっと、自己紹介がまだでしたね。私はフラスコの魔人。長い眠りから覚めて、今ご主人様の前に再び姿を現しました!」
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