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100人殺るまで帰れません
母親の記憶が少しだけある。
飲んだくれで、暴力をふるい、自他共に認めるろくでもない人間だった。
「お前なんか少しも可愛くない。でも、逃がさない。一生あたしを養ってもらう……」
いつもそう騒いでいた。
ごめんだ。まっぴらだ。
そう思った。その時は、心から。
■
迫釜第一高校は夏休みに入った。
そこの一年生六波羅涼一は、山奥に向かって列を成したバスの一台に揺られながら、隣に座る水越溌七に話しかけた。
「でもこんなの聞いてなかったよな。一年生は八月の最初の一週間、山の中で特別授業だなんて」
溌七はショートカットに吊り目がちの風貌で、女子ながら、性格も口調もやや男らしい。苦笑しながら答えた。
「まあ、授業って言ってもレクリエーションみたいなものだって先生も言っていたではないか」
「……俺は、溌七と二人の方が良かった。付き合いだして、最初の夏休みだぜ?」
口をとがらせる涼一に、溌七が焦る。
「ば、ばか、もっと小さい声で言ったらどうだ」
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