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「よしもらった!!」
一方ここは南側。受験者の一人が操作していた小鬼の斬撃攻撃が形水の体を真っ二つに切り裂く。液状の体の半分は力をなくしたように消滅していくが残りの半分はそのまま残り続け失った体を補うように音を立てながら修復を始める。
「ちっ、核を壊し損ねた…!でもこれで……!」
「はい、ご苦労さんっ」
その受験者が自分の小鬼で修復途中の形水にとどめを刺そうとしたその時、別の小鬼が乱入し形水の体の中心部に腕ごと短剣を突き刺した。形水は蠢くように暴れたがその後崩れるように消滅していった。受験者の少女は顔を真っ赤にして乱入した小鬼を操作していたと思われるフードを羽織った暗い茶髪の少女、エクゥスに詰め寄る。
「ちょっとあんた!!あれは私の獲物よ、何考えてんのよ?!」
「はぁ、なんで?他の受験者の獲物を取っちゃいけないなんてルールないよね?」
「だ、だからって普通妨害なんてしないでしょ?!」
「自分の普通を他人に押し付けるなんて、上流階級のお嬢ちゃんはどういう教育を受けたんだか……じゃこっちも暇じゃないんでね」
彼女の怒りの声を聴き流しエクゥスは次に湧き出した形水目掛けて走り出した。受験者の少女はこぶしを握り締め彼女睨みつけ、そして怒りのまま腕をクロスし振りぬく。
「ふ、ざけるなぁ!!この貧乏人がぁ!!」
彼女は自分と封魔傀儡を繋ぐ不可視不触の魔糸を操り自分の小鬼に命令する、あのフード女の小鬼を壊せと。しかしいつまで経っても後ろで待機していたはずの小鬼が突撃を始めない。不審に思い確認すると、
「ああ、しまったぁ?!!」
彼女のゴブリンが集まってきたと思われる形水に張り付かれていたのだ。形水は棒状の形状になり小鬼の体中に巻き付き締めあげていく。受験者の少女はそれをどうにかすべくパニックになりながらも操作命令を加えていく。しかし硬化した形水相手にはビクともせず次第に小鬼の体からひびが入っていく音が鳴り始めた。
「そ、そんな……!!私がこんなこんな……!」
「……助けてあげましょうか?」
ほとんど涙目の受験生は思わず後ろの見ると小麦色の肌にくすんだ長い銀髪の少女、トルチェが自分の小鬼をそばに置き立っていた。その特徴的な肌の色から彼女がどの階級の人間なのかは分かったがこのままでは自分は失格になってしまうという気持ちが彼女の口を動かす。
「お、お願い!!硬化してるのは内側だけだから外側から攻撃してくれたらきっと外せるわ!!」
「分かりましたよ、それじゃ……!!」
トルチェは指を動かし小鬼に命令を与え短剣による高速の一閃を受験者の小鬼に絡みつく形水の核の部分に畳み込む。その余りの速度に反応しきれず核を斬られた形水は泡のように消滅していった。その様子を見て受験者の少女は一息を着いたがその時自分の小鬼に何か異変が起こった。胸部の部分にスッと一本の線が入りそこから魔素がまるで血のように噴き出し倒れてしまった。
「え、え、え嘘…なんで、どうして?!」
少女はこの事態を引き起こしたと思われるトルチェの方を血走った目で見る。しかしその時もうトルチェは遠くにおり中央近くで他の形水と戦っていたエクゥスに加勢していたのだった。この時少女は気づく、彼女は初めからあのフード女の仲間で自分を反則ギリギリの方法で自分を排除するのが目的だったのだと。
『31番。貴様の小鬼の機能停止が確認された。退場せよ』
「く、くそぉぉ……!あ、あいつらのせいでぇ……!」
教官のアナウンスによって退場を命じられた受験者の少女は大粒の涙を流しながらあの二人の背を睨みつける。それに気が付いたのかエクゥスとトルチェはうっすらと笑みを浮かべながら誰でもわかるように口を動かした。
ばぁーか、と。
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