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リーンのテリアシーヌに対する宣戦布告を聞いた愚連隊達は俄かにざわめきだす。当たり前だ。少なくても彼女たちは自分たち以外の中流下級階級の人間が頭数も負けているこの状況で上流階級、しかも王下五貴族相手にここまでの啖呵を切るところを今まで見たことがなかったからだ。
「あの金髪、すげぇな根性あるわ……!!」
「頭どうします?!あいつに加勢してやりますか?!」
「………どうします、エクゥス」
「……いや、さすがに貴族共のほうが頭数は多い。真正面から戦ったら勝ち目が薄い、共闘は無しだ。………でも、中々面白いシーンを見せてもらった礼だ。敵対もしないで上げよう。さて、僕らは残った形水を狩るよ」
そう言うとエクゥスはハンドサインを出し待機していたメンバーはそれぞれ三人一組で散っていく。それを見たフランは慌ててリーンに報告する。
「まずいです………!!愚連隊達が動きました……!!まさか、私たちを包囲して一気に倒す気じゃ………!!」
「大丈夫、向こうは今のところこっちを狙ってくる感じはないよ。それよりフランちゃん、あなたの小鬼でシェナちゃんの小鬼を東側に運んで。ぱっと見だったけど、向こうにいる人の大半は初等学校からの同級生や中流よりの上流階級の人たちばっかりだった。きっと匿ってくれる」
リーンは右手で東の方向を指さしフランもその方向を確認する。確かにその方向には初等学校時代の同級生で固まって行動していた。フランも表情を少しだけ明るくするがそれに対し納得するわけにはいかないシェナは悲痛な声で強く反論する。
「ま、待ってよ!!もうあたしのことは置いていって!!さっきからあたしの小鬼は右足の膝部より下が全く動かないのよ?!この様じゃ、たとえ生き残ってもあたしの失格は濃厚………!だから」
「………大丈夫。あのフードの人の言っていることが正しければこの試験の失格基準は大きい部分は小鬼が機能停止になったか否か。だから、機能停止していない限りは合格の可能性がある……!さぁ、早く行って!!」
「………わかりましたリーンさん。シェナさん、行きますよ!!」
フランは、自分の小鬼でシェナの小鬼をお姫様抱っこで持ち上げさらにシェナ自身の手も引いて東方面へ逃げること進める。シェナは今のこの状況に対して諦めるように深い息を吐く。彼女は知っているのだ、普段自分の友人たちは自分の意見に対し一歩引いた意見を出すがこういう時の彼女たちは絶対に自分の意見を曲げないのだ。
だったらもう、自分も覚悟を決め、託すしかない。
「………!!……わかったよ、フラン、リーン。だったらせめて!!これを使って!!」
シェナは自分の小鬼に刺さっていた短剣を左腕で外すとそれをリーンの小鬼の足もとに突き刺した。リーンもその意図をすぐにくみ取り突き刺さった短剣の峰の部分を蹴り上げさせ小鬼の空いていた左手でそれを掴み二刀流となる。
「絶対に、勝ちなさいよ!!」
「お願いします!!」
二人は簡潔にそれだけ言うと、東方面に走っていくがそれに対し反応したのはテリアシーヌの取り巻きたちだった。彼女たちは自分の小鬼を操作しフランたちの小鬼を後ろから追撃する。
「逃がすわけがないでしょう?!」
「お姉様を、王下五貴族をコケにした罪あなた方にも支払っていただきましょう!!」
しかし、その動きに素早く反応したのはリーンだった。リーンの小鬼は明らかに他の小鬼とは違うスピードで追って二人の小鬼追いつきその前に立つ。その様に二人の追手は驚くがすぐさま短剣を構えさせ、リーンの小鬼を切り裂こうとした。が、次の瞬間。
金属が折れる音同時に二つ、鳴り響いた。
その様子にテリアシーヌ達やエクゥス達だけではなくその様子を形水を捌きながら横目で見ていた他の受験者たちも思わず目を見張る。硬度、靭性共に高くベテランでも好んで使う物が多い鉄短剣を一発で切り裂いた二刀流の小鬼を、そのゴブリンを操作する決意の目に宿した少女リーンを。
「………言ったはずです、これ以上私の親友に危害を加えようというなら、許さないと!!」
「………あなた達、下がっていなさい。どうやら彼女は私でなければ勝負にならないようです」
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