第一章:リーン対テリアシーヌ

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 テリアシーヌは取り巻きたちに下がることを命じると小鬼(ゴブリン)と一緒に前に出る。リーンも立ち位置を自分の小鬼(ゴブリン)の後ろになるように移動しテリアシーヌと相対する。二人は一定の距離を保ち双方をにらむ。特にテリアシーヌはリーンだけでなくその先にいるシェナ達を睨んでいた 「……まだシェナちゃんを追うつもりなの………?彼女の合否はこの試験とは何も関係ないのに」 「関係ありますよ。………詳しくは言えませんが、今のこの国は最大の危機に瀕しています。それこそ一歩間違えば国民すべてが死か、死よりも惨い最期になりかねない程の危機が」 「………?!」 「だからこそ国を守るべき私たち貴族は選別しなければならない。国の未来を背負うに足るカリスマと強さを持つ遣い手(コマンダ)を!!いらないんですよ、愚連隊(ヤングギャング)のような下劣な輩も!彼女のようなそんな輩にさえ劣る弱者も!!そして、そんな弱者をかばうあなたも!!!」  と、叫んだ次の瞬間テリアシーヌは両腕を振るい小鬼(ゴブリン)を突撃させる。リーンもそれに反応するもさっきの話の生で一拍遅れてしまったことを考え突撃ではなく迎撃を選択した。それを好機と考えたかテリアシーヌは突撃中の小鬼(ゴブリン)の左手に持たせた短剣をクロスするように振りかぶらせ横薙ぎの攻撃させようとする。 「(あれなら左の短剣でガードし右の短剣でカウンターを与えられる………いや、違う!!この人たちが散々見せてきた、この人たちの得意技は………!!)」  リーンが敵の手を思いつい時にはもう既にテリアシーヌは行動に移し、リーンの小鬼(ゴブリン)まで距離的にあと5歩といった地点で左腕を振りぬき短剣を一直線上に投擲する。そのスピードは先ほど取り巻きたちが見せたものとは段違いでリーンも回避をさせることができず両手の短剣二本を重ねガードさせることしかできなかった。しかも威力も高かったせいか前面をガードしていた右の短剣はひびが入ってしまい後一撃、衝撃が入れば砕けてしまうであろうことは容易に想像できた。 「(あなたが先ほど見せた小鬼(ゴブリン)の枠を超えたスピードと動き、まさかとは思いましたが、波紋同調(シンクロソウル)できる同年代がいたとは………それには流石に驚きましたよ)」  波紋同調(シンクロソウル)とは傀儡操術において最も難易度が高いと言われている技術である。封魔傀儡(デモンドール)は悪魔の核を専用の封印装置で封印しそれを絡繰り人形に埋め込みその腕力や魔力を操っているのであるが、人間の心臓が何時如何なる時も鼓動するように悪魔の核も封印されている間波紋と呼ばれる不規則的な反応を出し続けるのである。そしてその波紋と操者が動かすときに生じる動きの波が完全に一致した時封魔傀儡(デモンドール)はまだ生身の悪魔だった時以上のポテンシャルで行動することができるのだ。 「(ですが、私も波紋同調(シンクロソウル)をすることができる!!これで条件はほぼ互角、否!!体勢が崩れ二刀流というアドバンテージもなくなった今、私のほうが圧倒的に有利!!)……あなたの敗因は、自分を特別だと思い込み何でもできると妄信したことだ!!」  テリアシーヌの小鬼(ゴブリン)は取り巻きたちから渡してもらい小鬼(ゴブリン)の腰巻の後ろに隠していたもう一本の短剣を左腕で取り出し今度こそ大きく振りかぶり首元目掛けて斬りかかる。それに対してリーンの小鬼(ゴブリン)はひび割れた右の短剣をかなりの速度で突き出す。しかし、テリアシーヌは焦らない。リーンの小鬼(ゴブリン)の攻撃がこちらに届く頃にはもう首は跳ね飛ばせていると確信していたからだった。  だからこそ彼女はリーンの言葉に反応することができなかった 「“風ヨ・翔ベ”っ!!!」
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