47人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章:恐怖の始まり
「エクゥス………あの金髪、勝ちましたよ……!」
「ああ……僕も流石に予想外だった………波紋同調できるのは何となくわかってたけど、まさか魔法を使えるなんてね………ありゃ、潰すより懐柔を考えたほうがよさそうだ」
愚連隊のリーダー格のエクゥスとトルチェは20匹を切った形水の討伐をやりながら横目でリーンたちの方を見て戦慄する。相手は王都の王下五貴族ノルステム家。つまり200年以上前の72の魔柱の「名有り」の悪魔の軍勢との戦争でソロモン一世を支え数々の武勲を得た一族である。事実現当主と長女は王家の親衛隊の隊長副長を務めているのだ。その二人と比べると見劣りするもののテリアシーヌも相当な腕前である。少なくても、波紋同調をすることができない自分以上の実力を持っている。
「ま、いいや。とりあえずこれであの白髪おさげは終わりだ、この試験もね。形水共の数も少なくなってきてるし」
「正確に言うと形水達の反撃も少なくなってきてますね。連中のない頭でも自分たちではもう勝てないと思ってるでしょう、ね!!」
トルチェは軽口を叩きながらも見つけた形水の残党に対し小鬼を突撃させる。それに対して形水は迎撃どころか一目散に逃げだした。しかしそれを許さないかのようにエクゥスの小鬼が先回りし短剣を構える。そして方向転換しようと一瞬止まった形水後ろからトルチェが攻撃を加えようとした次の瞬間、
地面から大きな牙と口がせり出し逃げていたスライムを食らったのだ。流石にその様にはエクゥス、トルチェ共にフリーズしほとんどその本能的な恐怖に駆られ小鬼を下がらせる。しかし恐怖はまだ終わらない、演習場から突如として驚いた声や悲鳴が響き始めたのだ。エクゥス達は周りを確認すると他の場所でもほぼ同じような光景が広がっていた。硬い泡がつぶれるような音を出しながら形水を咀嚼し飲み込み終わったら牙と口は地面にしみこみ消えていった。今のところあの怪物は自分たちに害はない、しかしそれでも彼女たちの体からは冷や汗が流れ続ける。
「………何ですか…一体何が起こってるんですか?!」
「分からない………分からないよ!!」
*
「生徒会執行部!!試験は一時中止、受験生たちを避難させ今起こっている異常の原因を究明しろ!!」
【【【【【了解!!】】】】】
教官は通信具を使い生徒会執行部に命令を下す。彼女たちは素早く行動を開始し説明と避難誘導を行っていく。教官も動こうとした時、緊急通信が入ってきたのを確認する。その送信者は先ほど形水の格納庫を調べに行かせた彼女の部下である。
【た、大変です!!先ほど倉庫に到着しましたが、形水調教の管理者も警備員も繁殖用の形水も何もありません!!】
「何?!死体や封魔傀儡の残骸もか?!」
【はい、地面や壁は何か凹んだような跡がありますが本当に何もありません!!】
「………!!わかった。もうすぐそちらに警備隊が行くお前はその者たちに引き継いで、そこから戻ってこい」
【了解!!】
教官は再び通信具を切ると両手を前に出し封魔傀儡を呼び出すための詠唱を始める。
「出でよ、蛇神!!“熱キ瞳デ・隠レシ者ヲ・暴ケ”!!」
教官が言い終わると彼女の前に底なしの闇の穴が開き這い上がるように人のように腕と胴体を持ちながら頭部と下半身が蛇のような青い人形、蛇神が現れた。さらにその捕食者の瞳が教官の言葉によって薄い水色になると同時に彼女自身の瞳の色も変わる。
〈ハンターズ・サーモ・アイ〉。蜥蜴人のような爬虫類型の封魔傀儡と特に相性がいい視覚強化の魔法である。視覚強化の魔法の標準性能である封魔傀儡との視覚共有に加えこの魔法は物質を温度一℃刻みで区別し可視化して探知することができるのである。そんな目を以って教官は蛇神越しに演習場の地面を確認する。形水のように地面にしみ込んで消えたのだからおそらくこの以上の原因は地面の下にいると考えたのだ。
その考えは正解で、しかし大きな誤りだった。
「あ、あああ、ああああああああああ?!!」
教官は思わず絶叫し尻餅をつき遠目からでもわかるほど震える。かなり精神的にダメージを受けてしまったのか蛇神と彼女の指をつないでいた魔糸が切れ地面に倒れてしまう。普段の彼女なら絶対にしない愚行、しかしもし教官と視覚をリンクしていれば絶対に彼女のことを誹ることなどできないだろう。
なぜなら彼女は見てしまったからだ
地面の中に潜む、演習場の半分弱の大きさの圧倒的巨体な怪物の姿を。
最初のコメントを投稿しよう!