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生徒会執行部・会計、レイスはその光景を目の当たりにしてしまった。地面からせり上がった液状の不定形な悪魔が自分の上司である会長、アキを含めた受験生たちをその巨大な口で飲み込んだのだから。
「あ、あ、アキさぁぁぁぁぁんっっ!!!」
思わず大きな悲鳴を上げ膝から崩れてしまう。それが伝播したのか受験生たちも恐慌状態に陥る。逃げ出す者、尻餅をつく者、身を寄せ合う者、失神する者様々だ。しかし、呆けながらもレイスは気づく、咀嚼をしていた捕食形水の様子がおかしいことを。捕食形水口が何か内側から押されているかのように伸び始め水気を帯びた糸が千切れるような音が演習場内の鳴る。
そこから出てきたのは、正立方体の光の結界に入ったアキと受験生達だった。アキは結界に入ったままレイス達がいる方向に急スピードで着地した。そのまま結界を解くと鎧を着て東方の片刃剣を持ち、角が生えた封魔傀儡、鬼神を前に出し臨戦態勢をとる。
「アキさぁん!!ホンマよかった、死んだと思ったわぁ!!」
「………生憎、まだ私は死ぬわけにはいかないのよ。………それよりあなた達は、大丈夫?」
「わ、私は大丈夫です………けど」
泣きついてくるレイスを引き離したアキは後ろの受験生たちを見る。彼女の声掛けに答えたのはリーンのみでありあまりの恐怖に現実逃避してしまっている者や恐怖のあまり嘔吐してしまっている者たちもいる。もっともこれはまだマシな方である。助かってしまったが故に、より一層の狂気に飲まれた者たちもいた。
「い、いません……!!ローラさんは、マルシータさんは?!みんなは一体どこに?!………まさか、まだあの怪物の中に………!」
「くそったれがぁ!!僕の仲間を、返せぇ!」
「お姉様!!落ち着いてくださいまし!!私たちでは自殺しに行くようなものですわ!!」
「エクゥス!!落ち着きなさい!!あの怪物はもう我々でどうにかなるレベルを超えています!!今は我々だけでも逃げなければ!!」
テリアシーヌとエクゥス。上流、下流階級の一派閥を指揮していた彼女たちは自分の仲間達の大半がいないことが分かると半狂乱になりながら口を再生している捕食形水の方に向かおうとする。もちろんそれを止めようとダリアとトルチェは羽交い絞めにしてでも止めているが彼女たちの瞳も悔しさと恐怖、悲しみに濡れている。
アキが鬼神に発動させた〈プロテクション・セーブエリア〉は魔法攻撃以外の一切の攻撃を遮断しさらに移動することができる結界を作り出す極めて強力な魔法であるがそもそも大人数での移動を想定していないので発動者を含めてわずか10人程度しか運ぶことができないのである。あの時中心エリアにいた受験者の数は40人弱。つまり30人ちょっとは今なお捕食形水の体の中である。
アキは泣き叫ぶ彼女たちを見て血が滲むほど拳を握り締め、アキは地面から体を出し始め、落ちている小鬼達を捕食し始めている捕食形水を射殺すように睨みつける。
「………捕食形水は魔力量が多いものから順に消化していく性質を持っている。魔力の塊のような形水や一応は悪魔の小鬼と違い人間の少女は微弱な量の魔力しか持っていない。おそらくまだ消化されるまで最低でも8分は猶予があるはず。それまでに倒すことができれば………」
「ってもどうすんねん?!鉱泉の公爵達は昨日の犬っころにやられて今修理中やぞ?!もうすぐ直るやろうけど工房からここまでどんだけ離れとると思ってんねん?!大急ぎで運んでもらったって10分はかかるで?!」
「そうね、正直あの捕食形水は国家天災級の個体。特殊な魔法が使える「名有り」の悪魔以外ではおそらく勝負にならないわ。………でも私たちには、最後の切り札が残っている」
そう言うとアキは腰につけているポーチに入っている白い犬の人形を取り出す。その姿を見たレイスは彼女の言葉の意図を推測して思わず口に出してしまう。
「ま、まさかあんたが翼狗の大総裁を操る気か?!無茶や!!あんた適合しとらんのやろ?!適合者以外の人間はまともに操作できんのやぞ!!」
「私が操る、といつ言ったのかしら?」
「は?」という表情のレイスを放っておき彼女は捕食形水に背を向けゆっくりとある人物に近づく。それに応じてそれに応じて翼狗の大総裁もわずかに振動をし始めその頭部を彼女の方にゆっくりゆっくりと向けていく。
「………本当に良かった。気のせいではなかったようね。………では改めて言わせていただきます。
受験番号81番、リーン。この魔柱の悪魔が一体、翼狗の大総裁と私たちと共にこの窮地を救う手伝いをしてくれませんか?」
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