第一章:リーンの覚悟

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「と、その前に。教官、ここにいる生徒たちの避難場所への誘導をよろしくお願いします。後それにダリア、トルチェ。あなたたち二人も同行し支援を頼みます。」 「ええ?!」 「わ、私たちが………ですか?」 「ええ、あなた達が今残ったメンバーの中で比較的冷静な受験生だからよ。教官をサポートして頂戴、できるわね?」 「「は、はい!!」」  二人は背筋を伸ばし勢いよく返事をすると叫び泣き疲れたのか演習場の地面に座っているテリアシーヌやエクゥスを肩で支えるように立たせ他の受験生たちに避難の合図をさせる。教官も少し冷静になったのか立ち上がりアキを見て無言のまま頷き避難の先導を開始する。 「さて、私たちも始めるわよ。準備はいい?」 「はい、できています!!」 「よし、では起動させて頂戴」  そう言うとアキは翼狗の大総裁(グラシャラボラス)の人形を地面に立たせリーンはその後頭部に親指を当て、小鬼(ゴブリン)の時のように宣言する 「封魔傀儡(デモンドール)、接続開始っ!!」  すると黒い雷が翼狗の大総裁(グラシャラボラス)を中心に発生し始める。突如発生した現象に思わず目をつぶり親指を離してしまいそうになるがアキに肩を掴まれたことにそれをせずに済んだ。そのままアキは顔をリーンに近づけアドバイスをかける。 「いい?絶対に離さないで、目を閉じないで。もし、してしまえばもう未来永劫翼狗の大総裁(グラシャラボラス)はあなたに従わない」 「そんな、こと言われても………おおああああ!!」  実際に黒い雷が発生したのはわずか10秒程度であったがリーンにはそれが何十分も続いたような感覚がした。黒い雷が少しづつ収まりそして消えると瞬きしていないにもかかわらず翼狗の大総裁(グラシャラボラス)の人形の姿が消え、その代わりに彼女の目の前で大きな闇の穴が開いていた。 「………始まるわよ」  アキが囁いた途端、穴に異常が発生した。そこから最初に這い出たのは腕でも頭でもない、巨大な一対の黒い鋼鉄の翼だった。鋼鉄の翼はお互いに重ね合わせるように閉じられおり、今の時点でさえリーンよりも大きい。しかしそのまま動かなくなったため訝しげにリーンが近づこうとした時翼が当然猛スピードで開いたのだ。それによって発生した突風はもしアキに支えられていなかったら確実に吹き飛ばされていたのは明白だった。  リーンが再び黒い翼を見ようとした時もう既に穴も翼も存在せず上空に何かがいることを表す影だけがただ存在していた。その影は次第に色濃くなっていき次の瞬間、すさまじい地鳴りと共に白い犬の怪物が地面に着地した。  人工的な鋼線で作られた白い体毛に開けば体以上の大きさの一本一本の羽が鋼鉄でできた黒い翼。姿だけを見れば二足歩行の黒い翼が生えた白い犬のように見えるがそこに愛嬌など微塵も存在しない。刃状のむき出しの爪や口が開くことで見える牙は他者他物を傷つけるために鋭くなっており上述した毛や翼も軽い気持ちで触ろうと思ったら人間の脆弱な手など一瞬で真っ二つになっているだろう。その中でも特にぽっかりと空いた眼窩には黒い闇に満ちておりそこから無機質に光る赤い光はより一層の不気味さを醸し出していた。 「これが………翼狗の大総裁(グラシャラボラス)………!!」 「そう、鏖殺を得意とする悪魔たちの大総裁………そして、私たちの最後の希望。………さぁ時間がない、さっそく動作確認を始めましょう。」
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