第一章:リーンの覚悟

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 アキの言葉にうなづくリーンはさっそく魔糸を伸ばし翼狗の大総裁(グラシャラボラス)を動作確認をしようと指を動かし操作を始める。最初に腕を動かし足を屈伸させ腰を回し口を開かせた。動作自体は滑らかにできているがしかしリーンの表情は焦りと暗さを大いに表しアキの表情も硬いままだった。 「だ、だめ………どうしても半テンポ遅れてしまう!!ちゃんと操作しているはずなのに………!」  本来指に動かす動作と封魔傀儡(デモンドール)の動作は必ずリンクするのであるがこの翼狗の大総裁(グラシャラボラス)はリーンが指を動かしてほんの僅かしてから遅れて動いているのだ。もし相手がはるか格下なら全然問題はないだろうし、もし同格でもシェナやフラン達がやっていたように翼狗の大総裁(グラシャラボラス)の行動速度で補うという戦い方で十分行けるかもしれないが相手は触れたものを何でも捕食する捕食形水(イータースライム)、しかも練習ではない一回限りの実践である。  そんな付け焼刃で万が一翼狗の大総裁(グラシャラボラス)を機能停止させられ取り込まれてしまったらもう自分たちに勝ち目はない 「こんなのじゃ………ダメだ……!せっかく………せっかく、私は選んで、もらったのに………!」  リーンは強い自責の念に襲われるも悔し涙を流すもアキの感想は少し違った。硬い顔をほんの少しだけ緩め小さな笑みを見せる 「………正直制御できず暴走することも覚悟してたけど、なんとかそれは回避できたようね。大丈夫よ、希望の道は全く潰えていない。今なお私たちを照らしているわ」 「え………!で、でも半テンポも遅れるんじゃ一撃でも当たったらアウトの捕食形水(イータースライム)にはとても………!」 「そうね、このままでは確かにあれには勝てない。だったらどうするか?………簡単よ、覚悟を決めて死ぬ気で尽くす………それだけよ」  するとアキは懐から一本の両刃短剣を取り出しリーンへと見せた。その短剣は刀身が黒で染まり切っ先はなく四角で三つの溝ができていた。側面の刃は返しが付いており刺さる時も抜くときも対象にダメージを与えられるようになっていた。その凶器の側面を持ち柄の部分をリーンに差し出す。 「これの名前は贄の儀剣(リンクコネクタ)。「名有り」の悪魔限定で発動できるA級魔法具。これが発動すれば本来部分的にしか使うことのできない波紋同調(シンクロソウル)強制的(・・・)に1分から5分間継続させることができる秘奥人柱合魔(スケープリンク)を使用することができるわ。当然操者の思い通りに動かせる」 「す、すごい!!じゃあこれがあれば、悪魔だった時以上のポテンシャルで翼狗の大総裁(グラシャラボラス)を自由自在に操れるですね!!やった、これなら………!」  リーンはその柄に勢いよく手を伸ばし、それに触れかけたその時、 「ただし、これには多大なリスクが存在する」  アキの先ほどとは違う重い声で警告をかける。それに対してリーンは先ほどまで高まっていた興奮の熱が一気に冷え込むのを自覚するとゆっくりとアキの方を見る。それを確認するとアキは説明を始める、13歳の少女にはあまりもに酷な説明を 「この贄の儀剣(リンクコネクタ)はある場所に刺さなければ効果を発動させることができないのよ。 その場所とは、操者の鎖骨の間、より具体的に言うならば、心臓。………………最後にもう一度だけあなたの意思確認をさせてもらうわ。 あなたは1分から5分間、心臓が刃物に突き刺さり続ける痛みに耐えることができる?」
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