第一章:リーンの覚悟

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「………え?………ど、どういうこと………ですか………?!」  リーンは声を恐怖で振るわせながらアキに対して聞き返す。アキは贄の儀剣(リンクコネクタ)刀身から柄に持ち換え手首で振るいながら詳しい説明を始める。 「言った通りよ。人柱合魔(スケープリンク)を発動させるためには贄の儀剣(リンクコネクタ)を心臓に突き刺さなけれえばならないのよ」 「な、なんなんですかそれは!!それって、私に死ねって言ってるようなものじゃ………!!」 「それは、大丈夫よ。贄の儀剣(リンクコネクタ)は肉体ではなく霊体に干渉する魔法具で人の命を奪うことはできない。そもそも贄の儀剣(リンクコネクタ)の本質は「名有り」の悪魔を自由に操ることよりも操者の覚悟を伝えることなのよ」 「か、覚悟………?!」  アキはリーンの言葉に頷くとゆっくりと翼狗の大総裁(グラシャラボラス)の方へと近づきゆっくりと礼をする。本来封魔傀儡(デモンドール)は操者の操作なしにはどのパーツも動かないのであるが一瞬、リーンには闇に染まった眼窩に浮かぶ赤い瞳がアキの方を見ていたように見えた。 「魔柱の悪魔だけじゃなく「名有り」の悪魔全体に言えることだけど、彼らは大抵の場合異界における悪魔たちの支配者なのよ。私たちで言うところの貴族ね。 そんな彼らにとって封魔傀儡(デモンドール)として自分たちが手足のように使っている魔法をろくに使えない人間に支配されるというのは屈辱以外の何物でもないし、そうやって支配されている同族はたとえ自分より階級や武力が上の悪魔であろうと侮蔑の対象なのよ。「名有り」の悪魔の動作精度が通常の封魔傀儡(デモンドール)よりも低くなりやすいのは彼らのなけなしのプライドが乱雑不規則な波紋を生み出し操作を阻害しているから、とも言われているわね」 「そ、それは私も感じました。魔糸によって翼狗の大総裁(グラシャラボラス)につながった時あまりに早い波紋を感じました。………一応、合わせようともしたんですけど………なんというか意図的に操作の波とずらされているような、そんな感じがしました」 「うん、その感覚は正しいわ。悪魔は騎士以上に階級や上下関係に厳格だわ。私たちが人間という生物である以上、ある程度は性質的適合によって操作精度を上げれても操者側からの波紋同調(シンクロソウル)なんてどんな一流の遣い手(コマンダ)だって一秒も維持できないわ。 でもだからこそ、高い地位と誇りを持つがゆえに彼らは、痛みの伴う覚悟には命がけの懇願には耳を傾け譲歩せざるえない」  言い終えるとアキは手に持っていた贄の儀剣(リンクコネクタ)を一直線に投げリーンの足もとに突き刺す。リーンはそれには気づくもその方を見ることができなかった。アキのまるで自分を見定めるような澄んだ瞳からめが離せなくなってしまっていた。アキは小さく震えるリーンに向かって右手でピースマークを作り彼女に非情な選択肢を突き付ける。 「あなたがこれから取れる選択肢は2つ。 1つ目は贄の儀剣(リンクコネクタ)を使い翼狗の大総裁(グラシャラボラス)人柱合魔(スケープリンク)をして捕食形水(イータースライム)を討伐する。この選択肢ならこれ以上の被害もとりあえず防げ、現在捕食されている受験生たちが助かる可能性が出てくる。でも、あなたは自分で今している想像を絶する痛みを受けることになる。 2つ目は贄の儀剣(リンクコネクタ)を使わず翼狗の大総裁(グラシャラボラス)の飛翔能力を使ってここから北西の方向、封魔傀儡(デモンドール)の修理工房に行ってもらい私たちの魔柱の封魔傀儡(デモンドール)を取って来る。多分もう配達用の鳥翼人(ハーピー)を操作する遣い手(コマンダ)が飛んできてるだろうしあなたが中継になれば今から5分もかからず持って来れると思う。でも食べられた受験生たちは絶対に助からないだろうし犠牲者もその5分の間にもっと増えるわ ………これは、あなたの選択よ。自分の心に従って、悔い無き答えを」
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