第二章:入学式・後編

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 ジュリアのいきなりの提案に式場全体が大きく騒めき始める。この様子を見る限り彼女が言ったオリエンテーションは今回が初めての試みであったことが分かる。しかしジャスミンはジュリアの言った試みに対して反論する。 「待ってください、先ほど言った通り今年の最優秀生のリーンは病欠でこの式には来ていません。なのでせめて日を改めて…………」 『ジャスミン教官。私の考えに口出すんですか?たかだか下級従騎士長の貴女が中級従騎士長の私に?』 『?!!』 「……………!!……………いえ、出過ぎたことを言いました。申し訳ございません」 『いえいえ、ミスは誰にだってあることですから気にしないでください』  ジャスミンはあまりにも生徒の権利を超えているジュリアを諫めようとするも階級のことを言われると手を握り締め頭を伏せて自分の言葉を撤回してしまう。それを見ていた新入生たちは自分の担任を情けないと思う前に驚愕してしまう、壇上で話すジュリアが中級従騎士長であることに。  従騎士長とは主に騎士の指揮を任される前線隊長のような存在で実働する騎士団メンバーの中では最高位の地位となっている。確かにこのソロモン女学院は高等部から成績優秀生から選抜し王国騎士団への先行入団も行っているがどんな優秀な生徒でもほとんどが最下位地位の下級騎士であり、それだけ階級は上がりにくいのである。つまり彼女のように学生の身分で中級従騎士長になっているジュリアの実力はそれほど規格外だという証でもある 『でもまぁ教官の意見ももっともです。病欠でいないんだったら仕方がありません。次点の私の義妹が戦うっていうのも面白そうですが……………』 「………ひぃっっ」 『勝負は見えてるし、いっそのこと新入生全員と戦ってみるっていうのも面白そうですよね?』  拡声用魔法具を持ちながらジュリアは壇上から降り新入生が座っている方へと歩きその凍てつくような豹変した瞳で自身の義妹、テリアシーヌを睨む。テリアシーヌはその視線を恐れるように頭を俯くとジュリアはため息をつきつつ今度はその近くに座っていたフランの肩を叩き脅迫まがいの口調で自分の案への同意を求める。しかしフランはその威圧感に飲まれながらも彼女に言い返す。 「……………そんなに、楽しいんですか?」 『ん?何?聞こえませんでしたけど?』 「権力を笠に着て、私たちをこんな風に嬲ることがそんなに楽しいんですかっ?!」  次々と行われるジュリアの蛮行についに堪忍袋の緒が切れたのかフランは大声で叫び彼女を睨みつける。ジュリアはフランのその様子に不快そうな表情になるもすぐに平時の笑顔に戻り彼女の元から離れて壇上の方へと戻っていく。 『何か勘違いをしているようですが、私たちはあなた達をいじめる気なんてありませんよ?……………おそらく教官からも聞いたと思いますがこの国を支える遣い手(コマンダ)には数多の理不尽が襲い掛かります。ですからこのオリエンテーションはその予行演習のようなものです。…………私だって本当はつらい。ですが、これはひとえにあなた達を思ってのことなのです!!』  その壇上へと戻る途中、ジュリアはまるで演劇のセリフのようにすらすらと抑揚をつけて言葉を紡いでいく。その様子や話した内容により新入生以外のジュリアの提案に困惑もしくは反対意見を抱いていた生徒たちも納得や憧れの目線を彼女に向ける。  もちろんシェナ達は自分たちの近くにまで近づかれたこともあってかほとんど直感的に彼女が言ってることが口からの出まかせであることが分かる。しかしもはや今この場を支配しているのは間違いなくジュリアである、何を言おうとももはやそれはひっくり返すことはできない。  そして計算しきったようにちょうど壇上に登り元居た位置に戻ったタイミングでジュリアは最期の言葉を紡ぐ、完全に、完璧にこの場を支配し自分の思い通りに進めるために。 「そう、いうならばこれは愛!!このオリエンテーションをあなたたち全員に苦難を乗り越える道への第一歩になってほしいという」  私からの愛なのです、ジュリアは最後にその言葉によってこの話を終わらせるようとしていた。が、その時音がよく反響する式場内に金属製のドアが思いっきり開いた音が鳴り響いた。   それと同時に柔らかい声質の少女の驚く声が聞こえてくる。その聞き覚えのある声にシェナ、フラン中心とした新入生たちは思わず目を向ける、また在校生たちもそれに遅れて床に倒れている声の主を確認する。  その少女は肩程度まである長さの金髪と赤いリボンが付いているヘアバンドが特徴的だった。その腕にはここに来る道中にもらった柱と剣の紋章が入った腕章を付けておりそれに気が付いた在校生は思わず驚きで口を塞ぐ者もいた。だがそんな彼女の変化に気が付いていないシェナ達は思わず叫ぶ。 『リーン(さん)っっ?!!』
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