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一方その頃リーン側の客席、ここは主に飛ばされた新入生たちが座っていた。ほとんどの生徒があまりにも沸き立つ在校生たちのプレッシャーに萎縮してしまっていたがシェナ、フラン、エクゥス、トルチェ、テリアシーヌ、ダリアの6人はリーンの転送直後に特に示し合わせもなく最前列の席に座りこの状況を見ていた。
「何か、思ったより大ごとになってきてない?!」
「一般人も含めて転送された時点でもうかなりの大ごとだよ。てかさ貴族様、あんたの姉ちゃんいろいろぶっ飛びすぎてない?こんな事やらかしたら、いくら生徒の最高権力者(仮)だとしても絶対国の方からなんか小言言われんだろ」
「………ジュリア義姉様は昔からあんな感じです。周りから優秀だといわれている人に戦いを挑んで完膚なきまでに叩き潰して自分の好きなように動く下僕を作る。義姉様は、そう言う人間です……………」
テリアシーヌの消え入るような声に普段貴族を恨んでいるエクゥス達でさえ何も言えなくなってしまう。この気まずさをごまかすように彼女たちは闘技場の方を見ていると何やら動きがあった。
『あ、あの……………私実は三日間入院してて一体しかいつも使っていたものじゃない封魔傀儡しかいないんですけど…………』
『ふふ、大丈夫よ。安心してそれを使いなさい……………あなたが生徒会執行部に選ばれた証のともいえる封魔傀儡を』
『わ、分かりました。準備します』
そう言うとリーンはしゃがみ懐に収納していた人形を取り出し起動の準備をし始める。しかしシェナ達はちょうど位置として彼女の真後ろの延長線上にいるため何を起動させようとしているのか分からない。
「リーンさんは一体、どんな封魔傀儡を使うんですの?!」
「………初等学校ではリーンさんのお母さんのおさがりだって言ってた燕種の鳥人を使っていました。二刀流も含めてすごく強かったですけど……………」
「鳥人、ですかこれは最悪ですね。少なくても風魔法じゃ勝ち目がない…………」
「ま、術師型は物理防御能力が弱いし、鳥人はそれなりに近接格闘能力を持っているから近づければワンチャンあるかもしれない……………それまでに核までバラバラにされてる確率の方ずっと高いけどね」
「そんな……………リーン!!」
エクゥス達のほとんど絶望的な状況であるという解説を聞き思わずシェナは闘技場と観客席の境界線となっている柵にしがみつき友人に大きな声を掛ける。しかし在校生たちの声に紛れてその声は届いていないようでリーンは悠々と準備を進めついに封魔傀儡を起動させるためにそれの後頭部に両手の親指を当てる。そして次の瞬間、
彼女を中心にいつもの封魔傀儡起動の際の光とは違う黒い雷が発生し始める。それは観客席にまで届き思わず見ていた生徒たちはしゃがんだり背を向けたりして躱そうとしていた。少しすると黒い雷の勢いは消えていきその代わりにリーンの前方に闇の穴が開く。そのエフェクトだけでほとんどの生徒たちが驚きリーンの方向を見張るが彼女たちの驚嘆はこれだけでは終わらない。闇の穴から重なって立っている一対の黒い大翼が出現したのだった。
「な、なんですの?!あの翼は?!下手したら封魔傀儡一体分ぐらいの大きさがありますわよ?!!」
「ああ、あんなの鳥超人クラスだ!!」
「ね、ねえ、シェナさん。あの翼、どこかで見たことがあるような……………?」
「う、うん。私も本当に最近見たことがあるような気がする……………!でも、一体どこで?」
その巨大な大翼に観客が騒めく中、シェナとフランだけはどこか落ち着いていた様子でリーンを見ていた。少なくても自分たちはあんなにも大きな翼を見たことがないはずなのにまるでどこかで見たようなそんな既視感に襲われているのだ。しかし結局特に思いつかず頭をひねっていると重なって立っていた翼が大きく広がり周りに突風を放ちながら封魔傀儡本体が思いっきり飛び上がる。ほとんどの人間はその突風に耐えることで精いっぱいだったものの極数人はその飛び上がった封魔傀儡の姿を確認する。
フォルムは二足歩行の白い犬、という印象が強く出る。これだけならば獣人のようにも見えるがその背中から生えている黒く鋭い羽根を持つ大翼がその印象を否定する。少しの間浮いていたそれはある程度すると地面に大きな地鳴りを鳴らして着地する。そしてそのまま白い犬型の封魔傀儡、翼狗の大総裁はその空っぽの眼窩に不気味に浮かんでいる赤い光を目の前にいる風精霊術師・戒に向ける。
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