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「つ、翼が生えた犬……………あれはまさか、翼獄番犬?!」
リーンの操る翼狗の大総裁の姿を見て会場が大きなざわめきに飲み込まれている時、彼女の後ろ側の観客席に座っていたシェナ達もその例に漏れず、驚愕しており、特にテリアシーヌはあり得ないものを見たかのように口を手で塞ぎ小さく震えていた。
「お、お姉様!確か私の記憶だと翼獄番犬はマリオネツト王国全体でもわずか20数体程度しかいないおそろしく希少な封魔傀儡のはずです!それを中流階級の者が持ってるなんて……………!」
「ですが、彼女はそれを今こうして操っています。それが現実でしょう?」
「つーか、全然鳥人関係ないじゃん。君たち彼女と友達だったのに本当に知らなかったの?」
ダリアとトルチェが騒ぐ中エクゥスはシェナとフランに少しだけ恨めし気に問いかける。しかし、二人ともそれには気づかずじっと翼狗の大総裁を見ていた。するとシェナは零れ落ちるようにつぶやく。
「……………思い出した」
「え……?何、君はあれ見たことあるの?」
エクゥスのその言葉を皮切りにさっきまで慄くばかりだったテリアシーヌ達もシェナとフランに注目を集める。シェナはやや興奮気味に自分の見解を話し始める。
「うん!!ちょうどあの事件が終わった日あたしとフランはツインテの先輩に演習場まで連れてきてもらったんだ。その時リーンを背負ってた黒髪の先輩の封魔傀儡が機能停止している封魔傀儡を担いでいたけど……………今思い出した、それと全く同じだ!!」
「……………あの時は体中汗だらけで鼻血まで出していたリーンさんが心配で気になりませんでしたけど、確かにその時ちらっと見たのと同個体だと思います……………まさか、リーンさんの封魔傀儡だったなんて……………」
「……………結局、君たちもあの翼獄番犬の出どころはわからないってことか。でも今はそんなことはどうでもいい。
風精霊は中位級、に対して翼獄番犬は上位級…………。これで完全に封魔傀儡の性能は逆転した。それにあの子の操作技術が加われば十分勝機はあるぞ………!」
*
一方、闘技場の中心部。風精霊術師・戒と翼狗の大総裁はお互いに無機質な目で睨み合っている。その様子を見ながらジュリアは微笑を浮かべると拡声の魔法具を使いリーンに話しかける。
『で、ルールだけど。機能停止、核破壊無しの練習用のルールなんて生ぬるいと思わない?』
『…………それってノーレギュレーションでやるってことですか?……………でも、』
『大丈夫よ、私もそれの価値はよく知ってる。ボディはともかく核には傷一つ付けないわよ』
『分かりました………先輩がそれでよかったら……………』
『ふふふ、決まりね。審判!!』
リーンから言質を取るとジュリアは大きな声でとある生徒を呼ぶ。すると闘技場の審判が立つと思われる台座に異次元の猟犬の黒い液体の激流が発生する次第にそれが消えるとそこから紫色の長髪を一本の三つ編みにしてまとめた高等部の生徒と石格子でできた球状の檻の中に囚われてる白と紫の異次元の猟犬が現れた。紫髪の少女は咳をしながら拡声魔法具を使いルール説明を開始し始める。
『えぇー私は今回の審判を務めます委員会連合の一つ、選挙管理委員会委員長、マキラと言います。今からルール説明を始めます。
ルールは先ほどジュリア学生会代表がおっしゃった通り、機能停止、核破壊有りの実践形式で行いたいと思います。しかしリーンさんはまだ白兵戦の授業を受けていないため操者に対する攻撃は禁止とします。
万が一操者を攻撃、もしくはわざと前に出て敵の攻撃をためらわせる等の行為が出た場合、途中経過関係なく私の「名有り」封魔傀儡、封閉石の死猟犬の転送魔法で場外まで操者ともども飛ばし負けとします。よろしいですね』
『異議なしです』
『私も、ありません』
『よろしい、それでは今から10カウントを取ります。カウントがゼロになったら模擬戦を開始します。………10、9、』
確認が終了し終えるとマキラはカウントを取り始め、それに応じてリーンとジュリアは両腕を前に出し自分の封魔傀儡に戦闘態勢を取らせる。そしてついにカウントがゼロになる。
『模擬戦、開始』
『“風ヨ・翔ベ”っ!!』
『“惨禍ヘ抗ウ・戦イ加護ヲ”っ!!』
マキラのカウントがゼロになった瞬間、二人とも指を動かし行動操作をしつつ、一気に魔法の詠唱を始める。とすると次の瞬間二人の封魔傀儡にも明確な変化が生じ始める。風精霊術師・戒の巨大な回転翼式推進器が高速回転し始め、その両方から発生した巨大な竜巻が翼狗の大総裁の方へと飛んでいく。
翼狗の大総裁は〈シンプル・ウェポン〉の淡い光に包まれた腕をクロスにし右足は前に左足を後ろに置く。そしてそのまま飛んできた〈ウィンド・ショット〉を、両腕で大きく開くように素早く振り抜き、竜巻を霧散させ攻撃を無力化した。風の余波はそのまま側方へと散っていき生徒たちはその風に耐えたりスカートの端を押さえたりしていた。
初撃を防がれてしまったがジュリアの顔には焦りは一切なくむしろ不適の笑みを浮かべ逆にリーンはやや苦しそうな表情で息をゆっくり吐いていた。
「……………まぁ、この程度はしてくれなきゃ潰し甲斐がない」
「……………しかたない、頑張っていこう」
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