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運命と現実
次の年の5月上旬。
「本日は、新作の鯉のぼりのお披露目会へお越し頂き、誠にありがとうございます」
集まった地域の関係者、そして毎年大勢の鯉のぼりを楽しみに来る観光客の方々は大きな拍手を贈っていました。
相変わらず頭に白タオルを巻き紺色の作務衣姿の昇瑠さんは、大勢の地域の人の前に出るというのに普段通りの恰好でした。
全くこの方は、人目を気にするということを知らない人です。
5月の雲一つない晴天には、人一倍目を惹く大きくて立派な黒色と金色の鯉が、今年も気持ち良さそうに大空を泳いでいます。
「ママ、あの鯉のぼり綺麗な色だね!」
二つ結びの小さな女の子が、頭上の大きな鯉のぼり2匹を指さしました。
「本当ね。立派な大きな鯉のぼりね」
“ママ”と呼ばれた女性は、女の子が指さした方を見て微笑ましそうに答えました。
「違うよ!そっちじゃなくて、その間にいる紅色の鯉のぼりだよ!」
「あら、そっちの鯉のぼりなのね。確かに、綺麗な紅色ね。あれが、今年から仲間入りしたっていう新作の鯉のぼりね」
母娘の微笑ましいやり取りを横目に、昇瑠さんは通り過ぎました。
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