運命の願い

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できることならば、この立派すぎる2匹の間から……劣等感しかない“鯉のぼり”人生から解放され、自由になりたい。 僕たちを毎年眺めに来る『人間』になって、どこへでも行ける何でもできる自由な選択ができたなら―― なんて密かな願望を持っています。 そんな今日は、5月5日。 今年も、今日で僕たちの出番は終わりです。 明日の午前中には、僕たちは一緒くたにしまわれて、来年の出番まで永い眠りに着くのです。 こうして後何年、このような強い劣等感を抱えながら生活を送るのでしょうか。 一体、この生活から解き放たれるのはいつなのでしょうか。 先の見えない不安が、毎年この時期になると襲います。 この世に、神様というものが存在するとしたらどうか……どうか、俺を人間にさせて下さい!! そういつも強く願うのですが、どうやら神無月でも無いのに神様はずっと不在らしいのです。 今年も…… そう今年も諦めた瞬間、突風が吹き僕を含めた全ての鯉のぼりがバタバタと激しく尾を振り上げていました。 1台だけある、河の岸辺にに刺さっていた吹流しがカラカラと激しく音を立てて回っていました。 今にも壊れそうな勢いです。 「今日は、度を越えた風の強さだな」 黒色の鯉のぼりが、バタバタと全身を揺らしながら話し掛けてきました。 「おい、緑!弱々しいから、吹き飛ばされないように気を付けろよ!」 反対側の金色の鯉のぼりも、意地悪そうに話し掛けてきました。 僕は、その金色の鯉のぼりの言い方がどうにも好きになれずこのまま自身が飛ばされてしまえばいい。 そう思った瞬間、頭上でブチっという何かが切れる音と共に僕だけが激しい風に乗せられ飛ばされてしまいました。 「おい!!」 2匹の声が重なり、叫ぶ声が遠くに聞こえました。 正直、僕は念願叶って窮屈な現状から解放され、たとえその先に『死』が待っていようとも、それはそれで良かったと思えたのでした――。
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