運命がカタチとなる

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「とりあえず、俺の家がすぐそこだから何か着るものを貸そう」 男はそう言って、僕の肩を抱き寄せてくれました。 それ以外は聞こうともせず、ただただ男の暖かい手の温もりだけが肩を通じて伝わってきました。 連れてこられた男の家は、決して新しくはありませんでしたが、暖かい温もりに似たような木で造られたお洒落な家でした。 部屋の中は、暖炉で暖められていて裸の僕でも身震いをせずにいられました。 そもそも、鯉のぼりの時は天候関係無く、ずっと裸でしたが…… 「ほら、これでも着ろよ」 そう言って、同じ様な作務衣を手渡してくれました。 本当に、優しい方です。 室内を見渡すと、沢山の鯉のぼりが飾られていました。 僕の仲間になる子たちなのかな…… そう思いました。 「……お兄さんは、何をされている方なんですか?」 僕は、疑問をぶつけてみました。 「あ?……あぁ、驚いただろ。この鯉のぼり」 見慣れている僕には、特に違和感を感じませんでしたが普通の人間だったら、この沢山の鯉のぼりを不思議に思うでしょう。 「……はい」 流れに沿った返事をしてみました。 「俺はな、祖父の代から鯉のぼり職人でな。今ではもう、全国にもあまりいないんだ」 少し悲しそうな表情をしていましたが、それでも微笑みながら冗談混じりに説明してくれました。 「俺は、特に祖父が作った何とも言えない色彩の鯉のぼりが好きでな。大きくて派手な恰好良い鯉のぼりも良いんだが、それより唯一無二の職人しか出せない色合いで繊細な鯉のぼりの方が好きで……」 鯉のぼりへの熱い想いに、僕は感極まる自分がいることに気が付きました。 すると、男はハッとした表情になり僕へと向き直りました。 「つまらないよな、こんな話……。そのせいで、妻にも呆れられて出て行ってしまったんだ」 苦笑しながら僕へと話してくれました。 「そんなこと、無いです。僕は、鯉のぼりの話が聞けて嬉しいです」 「……鯉のぼりに興味があるなんて、面白いヤツだな」 男は、僕の顔を興味深そうに眺めました。
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