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「まあまあ奥さん、ちょいと聞いてくださいよ」 またぞろ昼ドラに感化されたらしいナルコは、私の机に構わず頬杖して、 「その不審者には名前があってね?」 「そりゃあ、人には名前があるでしょ」 「じゃなくてっ」ナルコは肘を机に滑らせてズッコケを表すと「いわゆる俗称ってやつ!」 「俗称、ねえ」 教室の壁掛け時計を見やる。もう少しだけ話に付き合ってあげても良さそうだ。 「その名も、童心(どうしん)未忘却(みぼうきゃく)男って言うんだけどさ」 「……何それ」 てか、人に指さすのやめろ。 ナルコは無礼も気にせず人差し指をくるくる回しながら、器用に片眉だけを上げて、 「んふふ、気になったでしょ」 「砂一握りほど、かな」 「もー、素直じゃないなあ。 そこは「教えてくださいナルコさん」だよ」 「うるさい。 人差し指折るよ」 「それは堪忍(かんにん)してっ!」 うわははっ、と人目を気にせず豪快に笑うナルコ。 何が面白いのか不思議だけど、私の不思議を凌駕(りょうが)したのは話題の不審者に名前があることだ。 てっきり、益体ない不審者の話を聞かされると思ったのに、名前が付けられるほど、変人扱いされているのだろうか。 「巷で話題なの、知らないんだね」 「私、巷は選ぶタイプだから。それで、名付けの理由は?」 「うんうん、そうこなくっちゃ。サクラの一握りの砂程度の興味に賭けて、お話ししよう」 ふんす、と鼻息を漏らすナルコは「その男が現れたのは、満開の桜が春愁を忘れさせるとある日のことだった」物憂いに窓の外の桜を瞳に映しながら、意外にも引き込まれる口調で話し始めた──
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