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私はいないはずのナルコの姿に怯えつつ、慎重に歩みを進めていた。
これでは私が不審者みたいだ。
もしも今日、男がいなかったら私は明日も調べに来てしまうのだろうか。そして明日もいなければ明後日、明々後日と……。
「ああ、もうっ。 ナルコが気になる言い方するのが悪いんじゃんっ」
素直になれない怒りの矛先を理不尽にナルコにぶつけ、直後にごめんねと謝ってから路地の角を曲がる。
するとその先には。
「……まさか」
脳が何か考えるよりも先に声が出ていた。
およそ十メートル先、創業何十年の老舗人気駄菓子屋の前に、マスクを付けた男の人がいた。
いただけなら良かったのに、彼は店外のカプセルトイの前で屈み、商品を吟味しているのか一向に動こうとしないのだ。
まさに、話に出てきたナントカ男に合致する。
「いや、でも……」
本当に彼なのだろうか。
たまたま同じ行動を取っていた可能性もある。決め付けるにはまだ早いような気がするけど。
訊くか。訊いてみるしかないのか。
ええい、背に腹はかえられぬ。
私は携帯を取り出して、あとワンプッシュで警察に連絡できる状態にしてから、空いた距離を早足で詰めて男の人に声をかけたのだった。
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