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百聞は一見にしかず。 初めてこの故事を心に留めることになったのは、高校二年生の春だった。 「──ね、昨日も出たらしいよ」 朝の穏やかな陽気が残る放課後、親友のナルコがまるで怪談でも話すような口調で、ニヤリと口角を上げた。 「出たって、何が?」 「野暮(やぼ)な。そんなの、不審者に決まってるでしょ」 「へー、そう」 「うはっ、意外とドライ!」 おでこに手を当てて背を仰け反らせ、さしずめお笑い芸人のリアクションを取るナルコは、話の興を削がれても存外気にした様子もなく、阿保面(あほづら)を崩さない。 私がドライになるのは、彼女の性格から滲み 出る反応が楽しくて揶揄(からか)いたくなるからだ。 ただ、春の風物詩にもなりつつあるソレに対 してのドライは、普段よりも冷たくなる。 私の名前がサクラであるから、不審者ってのは私を侮辱する存在以外の何者でもないのだ。 そもそも、「どんな不審者なのっ?!」って興味津々(きょうみしんしん)になれる方が凄い。
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