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「何これっ、お兄ちゃんセンス無い!」 白色の病室に、黄色い声がこだまする。 妹のミライ(四つ下の中学二年生)は片手に摘んだ猿のフィギュアを、目に涙を浮かべるほどに笑いながら批判した。 駄菓子屋前にあったガチャは(ことわざ)をモチーフにしていて、猿も木から落ちるが当たったのだ。 「いらないなら持って帰るぞ」 ミライから猿を奪おうとするも、華麗な手さばきで避けられてしまう。もちろん、本気で取ろうとしたわけではないのだが。 「いらないって言ってないじゃん。 早速飾ろーっと」 喜色満面のミライは、床頭台に並べられた雑貨の列にフィギュアを置いた。 「いつもありがとね。 わたしの為に」 「おう。ミライが笑顔になるなら、何だってするって決めてるから」 ミライに笑いかけると、再び「ありがとう」とえくぼを作って微笑む。そして僅かに憂心(ゆうしん)を滲ませた声で、 「だけど無理はしないでね」 「ミライは何も心配しなくて良い。そも、俺が無理できる人間だと思うか?」 「思わないかなあ」 「即答かよっ!お兄ちゃん悲しい」 えへへ、と笑うミライの頭を撫でながら努めて気さくに振る舞う。 吐いて良い嘘と悪い嘘なら、今の俺は前者を行使した。
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