プロローグ

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その表情が強張っていたのは、十二月の隙間風が相当寒いからだろうか。 「パパにお願いしようかしら。シシクにもう一枚毛布をあげてって」  そう、ガブリエラは思案する。だが、父エドワードは今、執事サイモンを連れて出張に赴いていた。今年は愛娘の誕生日を祝えないと嘆き悲しむ父親をあしらいつつ、送り出したのが昨日のことのように感じられる。そして、誕生日とクリスマスのプレゼントを大量に抱えて帰ってくるだろうと予想すれば、呆れて溜め息しか出てこなかった。  ガブリエラとしては沢山のプレゼントよりも、シシクと一日中過ごしていた方が幸せだ。何者にも邪魔をされず、たったふたりきりで過ごせるなら、流行りの新しい服だっていらないくらいだ。 「街にお出かけするのも楽しいし、一日中家で過ごすのも素敵だわ。サンタをお迎えするためのお菓子を作ろうかしら。シシクに手伝って貰うの!」  想像を膨らませながら昼食を摂っていると、半開きとなっていた扉の隙間からシシクの姿がちらりと見えた。どうやら起きて階上から降りて来たようで、いつものスーツではなく温かそうなコートを肩にかけ、メイドたちと談笑している。その首筋には細い体躯に刻まれた刺青の一部が顔を覗かせているはずだが、今は襟巻で隠してしまっていた。ヒールの低い革靴を履いていようと、スラリと高い背丈は健在だ。いつもとは違う出で立ちに、ガブリエラの瞬きが増えた。 「――そういえば。サクラマさん、新しく出来たお店、知ってます? 可愛らしいアクセサリーやお人形が沢山あるんです」  ガブリエラは食事の手を止め、三人の会話に耳をそばだてる。どうやら、シシクが何か相談しているらしい。 「知ってますよ。一度入ってみたんですけど、女の子が多くて引き返しちゃったんですよね。視線が痛かったな……」 「あら、殿方もいらっしゃいますよ。贈り物用の包装も頼めますし。それに、サクラマさんなら恋人のひとりやふたりくらい囲っていそうですから心配ありませんよ」 「そうですわ。シシクさんなら、最低三人といったところでしょうかねぇ」 「ええ? ふたりともどんなイメージ持ってるんですか、俺に。独り身だし、恋人なんていなんだけどな?」  独り身で恋人はいない……彼の言葉を反芻しながら、ガブリエラは無意識に拳を握る。メイドたちによるシシクの印象を耳にした時から、心臓が早鐘を打っていたのだ。
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