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来年の彼の誕生日はここの商品にしよう、と懐から取り出した手帳に万年筆を走らせる。ご丁寧にも、店名だけでなく住所とプレゼントの候補まで書き込んだところで、彼女は満足げに頷いた。
それにしても、何故彼の周りには猫が集まりやすいのか。そう、彼女の中でひとつの疑問が浮かび上がった。彼の名前にもなっている獅子――ライオンの姿を図鑑で見たことがあったが、第一印象は「大きくてたてがみがふさふさした猫」だった。それ故に、猫と波長が合うのかもしれないと彼女は大真面目に考えると。
「もしかして、これも怪奇現象……?」
頭の中で「ロンドンの七不思議」に加えつつも、ガブリエラは内心羨ましく思っていた。
「お出かけする時に集めて貰おうかしら」
だがすぐに、野良猫は不衛生だからという理由で断られそうだと予想した彼女は、むっと頬を膨らませた。
そうしているうちに、今度はシシクの姿を見失ってしまった。それどころか、霧が濃くなり出したために一寸先もまともに見えない状態だ。心なしか、頭が重たく感じられる。
「シシクったら、何処行っちゃったのかしら」
道路に足を踏み出さないよう気をつけていると、目の前を何かが横切った。
それは、黒い小さな雲だった。
濃霧が変化したものかと思ったが、どうも様子がおかしい。しかも、ふわふわと不自然に浮かぶそれからガブリエラは目を離せなくなってしまった。うずうずと好奇心が湧き上がる。
「不思議な黒い雲……これも、怪奇現象に違いないわ!」
追いかけようとした途端、彼女の小さな身体が後ろに強く引っ張られた。バランスが崩れたところを支えられ、口元を温かな何かが覆う。すぐに叫び、抵抗したが、ビクともしない。
「……暴れるな」
耳元を擽る音に彼女はピタリと固まった。街の喧騒よりも静かだが、大地を揺るがさんばかりの憤怒がガブリエラの身体に波紋を投げかける。
それは、聞き慣れたものだった。
「そのまま、静かにしろ」
恐る恐る振り返れば、すぐ後ろでふたつの光がこちらを睨んでいる。ギラギラと真冬の風よりも鋭い双眸に、ガブリエラは縮みあがった。
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