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シシクに捕まったガブリエラはこってり絞られてしまった。いつもは彼女をはじめクロフォード家を脅かす者たちに向けられる鋭い眼孔と、身体から滲み出る怒りは殺気と同様の凄味があった。終始静かな口調で諭したシシクだったが、叱られる側にとっては命の危機を覚えるほどのものだ。抑え切れなくなったガブリエラの頬から涙が流れ落ち、それを見たシシクが慌てふためかなければ、説教はもう少し長くなっただろう。
このティータイムは、彼なりの償いだ。独り歩きがどれほど危険かわからせるためとはいえ、怖い思いをさせてしまったことに罪悪感を覚えて仕方がなかった。
「……にしても、とんだお転婆姫だ」
お転婆姫の部分だけ、ヒノモトの言葉を使う。シシクだけが呼ぶガブリエラの愛称だ。
「だからその、オテンバヒメって何なの?」
「それは、教えてやんない」
意地悪そうに口角を上げて、シシクは新聞に目線を戻す。視界の端では、ガブリエラが次の菓子に手をつける。不服だと言いたげな目をしているが、怒られたことが相当効いているらしい。少しくらい頭を冷やせ、と彼は気にしないようにした。
新聞の一面には、近頃発生している黒い霧についての記事がでかでかと書かれていた。体調不良者や幻覚を見る者、死亡者も増えつつあると書かれている。未だ解決していない公害への問題提起で、文章は締め括られていた。
ページを捲ると、次は華やかなニュースが目に留まった。改修工事を行なっていた『月桂樹座』のこけら落とし公演がクリスマスイヴに決まったというものだ。バロック調の豪華絢爛な建物の写真が大きく載せられている。そして、双子の片割れである『真珠座』のこけら落としは新年明けを予定している、とも書かれている。
このふたつの劇場は、ある貴族の双子の姉妹にあやかって名付けられたらしい。その由来については、シシクよりも観劇の好きなガブリエラの方が詳しいだろう。しかも、クリスマスイヴ。十二月二十四日はガブリエラの誕生日だ。話の種にしようと彼は口を開いた。
「やぁ、ごきげんよう、ガブリエラ」
頭上から届いた柔らかな声にふたりは顔を上げ、シシクだけ立ち上がる。
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