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そこには、品の良さそうな少年が立っていた。王冠のように輝く金髪碧眼。人柄が滲み出ている微笑みを称えた彼には、美少年という言葉がよく似合っている。彼の後ろには背の高い男が控えているが、彼もまた整った顔立ちがうねる銀髪に埋まっていた。
「ごきげんよう、エルリック。何でここにいるの?」
少年の姿を捉えた途端、ガブリエラの口がへの字になったのをシシクは見逃さなかった。
エルリック・スワン。スワン侯爵家の一人息子であり後継者。美貌に加え、朗らかな人柄と父親の幅広い人脈によって、十三という若さで社交界の華となっている。スワン家主催のパーティーのほとんどが未成年の参加を認められており、それ故に同世代の子息からの指示が高かった。
そして彼は何を隠そう、ガブリエラの許嫁であった。彼らの父親は交友関係にあり、生まれた時から既に決まっていたのだ。物心つく前に勝手に決められた人生が、ガブリエラは気に入らなかった。他にも理由はあるらしいのだが、シシクはそれを知らない。
「偶々このお店の前を通りかかったんだ。そうしたら、窓から君の綺麗な髪の色が見えたから、声をかけたくなって」
ニコニコと受け答えるエルリックに、ガブリエラは更に目を細める。が、帽子の鍔のおかげで、エルリックには見えていないようだ。
「今日は変わった恰好をしているね。男の子みたいな服装だけれど、ガブリエラは可愛らしくて美人だから何でも似合うなぁ」
「き、気分転換よ! 悪いかしら?」
「ううん、むしろ君らしくて僕は好きだよ」
気障ったらしい台詞だが、エルリックは本心から言っている。天然の人誑しだ。そういうところをガブリエラは苦手に感じていた。
「お久しぶりです、サクラマさん」
「こちらこそ、ノリスさん」
エルリックの背後に立っていた男性がシシクの前に歩み寄って来た。彼の名はフレッド・ノリス。スワン家のフットマン兼エルリックの従者を勤めている。スラリとした身長はシシクと同じ高さで、顔を合わせればピタリと視線が合う。白を基調としたお仕着せは、彼の淡い銀髪に合わせたものだった。
「それにしても吃驚です! ガブリエラお嬢様はよくお忍びで街をお出掛けになっていると聞いていましたが、まさか男装なさるとは」
「俺も吃驚です」
俺も、を強調させて、シシクは頷く。
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