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「あ、あの…ど、どれが薄いやつですかね…」
その客は、そう言って陽太を引き留めた。
え…コンドーム選ぶところとか、他人に見られてんの嫌じゃないの?
陽太は少しまた違和感を覚える。
が、何度も言うが相手はお客様だ。
仕方なく、極薄、とか、うすピタ、とか書かれているパッケージのものを手で示す。
「このあたり…ですかね?」
これも何度も言うが、陽太自身はコンドームを買った経験がない。
いつも鷹城が用意してくれているし、そもそも陽太が散々喘がされ、快楽に溺れて、我を忘れてしまっている間に、いつの間にかスマートに装着するそのひとなので、どんなものを使っているのか、パッケージすら見たことがないのだ。
なので、それの種類について色々訊かれても困ってしまう。
「あの、あの…薄いほうがキモチイイですか?」
それなのに、そのお客は、更にそう訊いてきた。
はあ、はあ、と最早息遣いの荒さを隠そうともしない。
そして、やたらに陽太との距離を詰めてくる。
「貴方は、いつも、どれ、使ってるんですか?」
「え……?」
「どれが、貴方のオススメ、ですか?」
マスクで顔の大半が覆われているけれども、ボサボサに伸びた前髪の隙間から見える目が、ギラギラと光っている。
陽太は思わず後退った。
背中に陳列棚が当たる。
「お、オススメ、とかは、その、好みの問題かと思うんで、あの…」
そもそも、陽太自身はコンドームを使ったことがほとんどない。
鷹城が初めての相手で、そして、そのひとしか知らないわけで。
彼は、自身は割ときちんとコンドームを装着して陽太の中に入ってくるが(時々は装着なしでそうなってしまうこともあるが)、陽太にはあまりそれを着けたがらない。
自宅以外の場所で、汚すといろいろ困る場合のみだけだ。
「こーゆーの、着けたこと、ないの?」
店員さんなのに?
試してみなきゃ、商品の説明できないじゃん?
お客に説明できなきゃ売れないでしょ?
僕が手伝ってあげるから、着けてみなよ?
これ、全種類買うからさ、全部、君、試しにさあ…
その客は、ハアハアと荒い息を吐きながら、陽太に身体を密着させてくる。
股間が服の上からでもはっきりとわかるぐらい隆起していた。
それを、ゴリッと太腿に押し当てられる。
「おい、何やってんだ、てめえ」
低い、地を這うような声が、その男の背後から聞こえた。
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