第1章

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 愛されたいのは悪くない。自分の思いに素直になれないのも悪くない。思いっきり泣けなくてもいい。それがわたし。全部でわたし。馬鹿な失敗をするのもわたし。今愛されなくて、愛を失って苦しんでいるわたし。でも愛されることを他人に依存するうちは、佐武くんじゃなくても、いつか苦しむようになる。  じゃあ、どうすればいいの? 自分で自分を愛してやらなきゃ。でも、どうやって? その問いに対する答えはなかった。  突然、歓声が下から上がってきた。サッカーでゴールが決まったらしい。グラウンドで飛び跳ねる子どもたち。ビデオカメラを構えた親たちも口々に叫んでいた。  わたしは弾かれたように立ち上がった。同じ場所が何だか違って見える。  秋空はどこまでも澄んで青く、グラウンドの濃い緑。川の向こう岸の黄緑に近い薄い緑。それらは完璧な芸術作品のように、わたしの胸に届いた。  サッカーに興じる子供たち。生い茂る草花。太陽と水。植物は一人で芽を出し、葉や茎をのばし、やがて花が咲く。そんなふうに、わたしも生きられるだろうか。そう思った瞬間、ふいにこみ上げたもので、風景がぼやけた。 《FIN》
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