避けられぬ不穏

1/86
104人が本棚に入れています
本棚に追加
/639ページ

避けられぬ不穏

だらりとぶら下がる右腕から血がぼたぼたと 滴り落ちている。 「災難男とはこの程度か?」 目の前のタキシードを着た男が血に染まった自分の左手の指を舐めている。 災難男? それが自分の事だと理解するのに時間が掛かった。 自分が日比野 景壱だという事も今、漸く思い出したのだ。 恐らく、血が流れ過ぎ考える力が鈍っているのだろう。 「殺せとは言われてないが、気が変わった。今、楽にしてやろう」 男が向かって来る瞬間、景壱は無意識に左手を男に向けていた。 何故、自分が殺されなければいけないのだろうという怒りを抱いたまま。
/639ページ

最初のコメントを投稿しよう!