マティーニ

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 マティーニと一口に言っても、バーテンダーや客の好みでその数は膨大なものになる。  普通、マティーニというと、ドライ・ジンを主に、ドライ・ベルモット、オレンジ・ビタースなどを使い、飾りとしてスタッフ・ド・オリーブをグラスの底に沈め、香り付けとしてレモン・ピールを振りかけるというものだが、レシピの分量の違いや、付け添え物の有るか無しなどが微妙で、酒場でのうるさ方の話題にも時折肴となるカクテルである。  しかしそれが、ひとたび「ドライ・マティーニ」となると、オリーブはもちろん、ベルモットやビタース、レモンピールの香りすらさせてはいけない。    ウインストン・チャーチルに至っては「ベルモットのことを思い出してもいけない」とまで言っており、余計なものを排除し、よりハードボイルドを探求するという意味のようだが、それはもはや、良く冷えたドライジンのストレートでしかない。  客の中には時々「シェークで・・・」と注文する人もいるが、これは、ちょっとした勘違いである。  何故なら、映画のワン・シーンでジェームス・ボンドが注文しているのはウオッカ・マティーニなのだから・・・。
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