マティーニ

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 島牧村の釣り大会は年を重ねる度に大々的になり、今では本州からツアーを組んで参加する人達もいる。勿論、道内の釣り師たちも各地から集まるので、島牧の海岸線一帯は土、日ともなると、釣堀りさながらの状態となる。  そんな中で菊村と私が並んで釣りが出来るのは、この数年の間にチーム化した「菊村軍団」の若い釣り師達が場所を譲ってくれたからだった。  午前五時頃から竿を振り始めた菊村と私は、これといった会話もないまま、ただひたすら荒れ狂った海に向かってルアーを投げ続け、菊村がバッグの中からポットを出して、熱いお茶を振舞ってくれたのは、午前九時を回っていた。  海の状態は極めて悪く、三枚波が五枚になって押し寄せ、時には頭から被ることすらあったし、夜明けには曇天だった海岸線も、今では激しい雪に邪魔されて殆んど見通しが利かない。  時折強く吹き付ける風は、菊村と私の左半身に吹き溜まりをつくり、ルアーをあらぬ所へ飛ばした。  目を凝らして周囲を見渡すと、肩が触れ合いそうなほど並んでいた釣り師たちは殆んどが跡形もなく車に退散し、さしもの菊村軍団ですら数人を残して消えていた。
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