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鉛色に輝く腹、夏空のような青い背に雪色の唐草模様と牡丹雪模様、そして、白銀の箒模様を尾に纏った、よく肥えた雨鱒が二尾、二人の足許に横たえられていた。
菊村の雨鱒は二尺四寸、私のはそれよりも僅かに小さい二尺二寸、いずれにしても双方共に、かなりの大物であることに間違いはなかった。
気が付くと吹雪はすっかり止んで、雲の切れ間から青空が見え隠れしていた。
この日以来、菊村軍団は、入れ代わり立ち代わりで、私の店を利用するようになり、たまには菊村もそれに加わっていた。
菊村は普段、バーボンの水割りしか飲まなかったが、この日のような釣りができた日は決まって、オリーブ抜きのマティーニを二杯注文し、一杯目は三口程で、二杯目は時間をかけてゆっくりと飲み干した。
菊村に提供するマティーニは私が特別に調合したもので、オレンジビタースで洗っただけの氷と、冷凍庫で凍らせておいたタンカレーのドライジンをミキシンググラスに注ぎ、軽く混ぜたのち、良く冷えたカクテルグラスに移しただけのもので、ベルモットも、レモンピールも使わない。
「あんたのマティーニは、どうしてこんなにドライなんだろうなぁ・・・」
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