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そのうち胸の痛みが少しずつ遠ざかり、雨の音がまた聞こえてきた。キシは僕を抱いたまま、手を伸ばしてティッシュを何枚も取って、そのまま僕の顔の前に押し込んだ。キシが着た古いTシャツが濡れていた。
「上野」
キシが低い声で呼んだ。僕は顔を上げた。
「俺がまたいなくなると思う?」
「…わからない」
「どこにも行かないよ。約束する。でも約束しても信じないだろう?」
キシはもう一度僕を抱きしめて、髪に唇を押し付けた。
「だから、やり直すチャンスをくれって。証明するために」
「証明?」
「どこにも行かないって、ずっと一緒にいたら証明できるだろ」
それからキシは僕の背中を撫でて、
「好きだよ。ずっと好きだった」
と小さな声で言った。
今ここで静かに雨を聞いている時間が永遠に続くなら、僕の寂しさはいつか消えて無くなるだろうか。それともキシの腕に抱かれながら、こうしてずっと寂しさを抱えていくのだろうか。
その答えはわからないけれど、壁にピンで何かを留めるみたいに、寂しさをその瞬間に留めて脱ぎ捨ててしまえたら、どんなに楽だろうか。
泣き疲れてろくに出ない声で、
「キスして」
と囁くと、キシが唇を重ねて、
「好きだよ、上野くん」
ともう一度言った。時間は否応なく流れて、僕は世界の新しい様子に目を開ける。
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