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そう言った後で、彼はふふっと笑い声を立てた。
「この感じがするのは、上野に触った時だけだよ」
驚いて目を開けると、キシは僕を見て笑った。
「俺だけに感じるって言ってくれ。嘘でもいいよ」
キシの声は軽やかだったが、その目を見ると胸がいっぱいになった。息を止めて見つめ、そのままでは声が出せず、俯いてやっと、
「どうして嘘でもいいんだよ」
と言った。キシは腕枕をしている手で僕の頭を抱き寄せた。
「それは、お前がそう言ってくれたら、俺だけが好きって意味だから」
「…」
「そうじゃない?他の奴にも同じように感じてたとしても。嘘でもそう言ってくれたら」
キシの静かな声は、彼の体に共鳴して、振動になって僕の皮膚を震わせた。僕は顔を上げた。
「キシさんにしか感じない。嘘じゃない」
涙が溢れた。
「…嘘じゃないけど、別に信じなくてもいい。信じなくていいから、近くにいてくれる?もう遠くに行かないって」
僕は我慢できず、しゃくりあげた。
「どこにも行かないで、キシさん。お願い」
キシが僕を抱きしめて、ごめん、と言うのを、泣きながら聞いた。胸が何かで刺されたように痛くて、セックスの後に泣くなんて最悪だと思いながら、泣きやむことが出来なかった
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