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ノクスの足が物に当たってバランスを崩した。
「あっ!」
痛みを感じると思って体が強張ったが、そうはならなかった。たくましい腕の中に自分の体は抱き留められていた。
「足元の邪魔なものは片付けさせよう……床を血で汚されては困るからな」
「ありがとう……」
体を立たせられて、壁を触らされる。
「このまま行けばお前の腰位の高さの棚がある。扉は無い。そこのどこかに腕輪がある」
そう言うとモルスは椅子に戻った。ワインを手に、ノクスをまた見る。やっと棚を見つけ、その中を探している。いくつかの小物があって、探しているうちに2つの物が転がり落ちた。ハッとして耳を澄ませる。音が止まった方へ床を探りながら這っていく。
1つはすぐに見つけた。耳飾りだ。しかしもう1つは小さな水晶の玉だった。転がった先が分からない。モルスは面白そうに見ている。
「右だ、ルベル」
右に手を伸ばす。ノクスには探しているものが玉だとは分かっていない。指先が触れた時にそれは転がっていった。また手で探る。今度は遠くに転がっていく。
「左に行ったぞ」
ワインを飲みながらモルスはただ楽しんでいた。退屈だった毎日に初めて楽しみができたのだ。
そのうちノクスが動くのをやめた。
「どうした? 探せないのか?」
モルスに向けた顔が涙で濡れていた。ドキリとするほどその顔が美しい。
「僕が……這って物を探すのを見て、楽しい?」
不意に胸を突かれた。焦点が自分に合っていない目に、心を見透かされたような気がした。
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