競り

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その時ガッシリした声が後ろの方から響いた。 「450」 大声でない落ち着いた声。誰もが振り向いた。あちこちで囁きが起きる。 「モルスだ…」 「来てたのか、あの男…」 「…死神モルス」 その最後の言葉にルクスの背中に冷たいものが走った。 「ルクス……あの声、怖い…」 後ろで震え出したノクスが背中にぺったりとついた。 途端にまたため息が起きる。 「モルス、引っ込んでろ! 貴様には勿体ない!」 「お前こそすっこんでろ、でぶ。どうせお前の腹の下ですぐに押しつぶされて死ぬんだ、俺が拾っていく」 冷たい、温度の無い声。まるで研ぎ澄まされた刃のように心を切られそうだ。 「黙れっ! 470だ!」 「500」 「う…520…」 「いいのか? 屋敷を手離す気か? お前の掛け金、美味しそうだ」  ここのルールは、いったん口に出した金貨を引っ込められないことだ。50と言って手を引いた者の金貨50枚は競りに勝った者の手に渡る。だからみんな無茶が出来ない。 「うるさいっ! 520だ、どうだ!?」 「550」  競りの代金として、自分の出した金貨はそっくり競り市に支払う。そして奴隷が手に入り、大金が手に入るわけだ。手に入った金貨からさらに10%は競り市の開催者の懐に入るが、競りから下りた者たちの金貨は膨れ上がっている。だから高値で競り落としても損はないのだ。  ただし、その金貨は日付が変わる前に払わなければならない。競りを台無しにすれば、命が無い。    
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