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太った男の声が止まった。
「550! 過去最高の高値だ、興奮しますね! 550、それでよろしいか!」
「…56」
「やめておきなさい、相手は死神モルス。あの男が入ったら競り勝つことなどできませんよ」
隣の男が忠告したが、その忠告が火を煽った。
「600! どうだ!」
汗でぎらぎらした顔がモルスの声がやんだから醜い笑いを浮かべた。
「お前たちは私のものだ! 私の愛玩動物だ!」
ルクスの体が硬直した。ノクスにはその意味は分かっている。あれからたくさんの言葉をルクスに教わり、船で耳にした。ルクスの前に出た。
「僕たちは誰のものにもならない! ルクスには誰も触らせない!」
競りを仕切っている男の手に太いムチが握られた。それを見て今度はルクスがノクスの前に飛び出す。
「650。これで終わりだな」
太った男ががくっとその場に崩れ落ちた。
「俺の物だ、ムチは控えてもらおう」
「もちろんです! 650! 他に無いか? 他に無いか?」
もう声を出すものはいない。
「モルス殿、650金貨でお買い上げ! 夜までにお支払いを…」
「今、払う。すぐに連れて帰る。どこかの阿呆が因縁を吹っ掛けてこない内にな」
これでこの日の競り市は解散となった。残ったのは双子と金貨の山。
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