競り

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「貴族の出と言うのは本当か?」  男の背丈はあのマーカスより高かった。黒い長い髪。浅黒い肌。切れ長の目に整った顔立ち。首はがっしりと、体つきも逞しい。美しい男だが、危険な匂いが立ち込めている。 「はい、シルウェステル伯爵の城が落ちまして領地も無くした跡取りです」 「どっちにも上客がつきそうだが。伯爵はどっちだ?」 「僕だ!」  ルクスは目の前の男の腰にある剣を狙って飛び掛かった。手が触れたところで殴り倒された。 「おい、元気がいいな。つい手が出ちまった。もう俺を試すな。とんだじゃじゃ馬だ」 「ルクス、ルクス!」 「だ、いじょぶ…」  ノクスの腕に掴まって体を起こした。 「そうか、お前が伯爵殿か。だが、今日からは俺の奴隷だ。帰ったら立場というものを叩きこんでやろう」 「死神モルス」  船長だ。 「どうしてあんたが?」 「私が売り主だからね。気持ちいいもんだ、あんたが俺から買うってのは」 「ふん。お前にしちゃ上玉を手に入れたもんだ。誰からだろうが構やしない、もう金は払った」 「ああ、いい金を払ってくれた。気分がいい、今夜は祝宴だ」 「良かったな。帰るぞ」  鎖をいきなり引っ張られた。 「あの、もっと丈夫な鎖に」 「要らん。繋がれて、片方は目が見えないんだ。逃げたら両足を折る」 淡々とした声。口にしたことはやる、支配者の声だ。 「じゃ、船長。互いにいい競りだったな」 「可哀そうにね、死神モルスに買われたんじゃもうあの子たちはお終いだ」 「知ったことか。それより上手く行った。これが分け前だ」 受け取った金貨から10枚を仕切っていた男に渡す。 「またいいのがあったら連れてきてください」 「分かった」  今夜の酒は美味そうだ。そう独り言を言いながら船長は船に向かった。こうして二人は得体の知れぬ男の奴隷として売り飛ばされた。   
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